地獄のはじまり

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地獄の始まり 「1億円の連帯保証」

それは一本の電話からだった。平山さんという、亡くなった父が勤めていた九州シティ銀行時代の後輩で、当時は地場中堅ゼネコンの副社長。私は東京や大阪で就職・転職・起業で失敗を繰り返し、6社目となる東京の出版社「ビジネス新社」で、文字起こしのバイトをしていた。

「克己さん、私はあなたのお父さんが銀行の取締役時代、大変世話になった者です。実は、あなたのお母さんが1億円の借金をかぶり、土地も差し押さえになりました」

「えー!?何ですか?それは!」

「お母さんが、ある男の連帯保証人になっていたのですが、その男が返済せず、請求がお母さんのところに来たのです。一度、こちらへ帰って来れませんか?」

実家が1億円の借金?土地が差し押さえ?そんなバカな。嘘だろう。悪夢のような話だ。しかし、博多へ帰ってみると現実だった。

母が連帯保証した相手は佐賀県唐津市和多田の浦山康史。年齢は60代前半で妻子持ち。職業はフリーの地上げ屋。

地上げ屋!

権利などの入り組んだ土地をまとめ、マンション用地などにする裏方の仕事。暴力や脅しでの立ち退き・・ヤクザというイメージもある。

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当時、世間では「バブル崩壊」という言葉が流行っていた。私自身はほとんど実感がないが、1980年代前半から好景気が続き、80年代後半は株や土地が高騰。それが1990年代に入って下落し始め、「不況」とか「バブル崩壊」とかいう言葉が使われるようになっていた。

地上げ屋の浦山が借金した相手は、博多駅南の「エビス信販」と「なにわ商事」。いわゆる高金利でお金を貸す街金、高利貸しだ。約1億円にのぼる借金を浦山が返済しなかったので、街金は連帯保証人である私の母に請求。かつ、福岡市の中心部、大名にある先祖代々の栢野家の土地も差し押さえた。

Uターン後に登記簿謄本を見ると、裁判所による「競売開始決定」も記載されていた。

母が他人の連帯保証人として1億円の借金をかぶり、土地も差し押さえになった。このままだと家屋敷を全部取られる。相手は地上げ屋と街金。

さらに、母とその妻子ある地上げ屋は「できて」いた。こんな火曜サスペンスドラマのような出来事、ホントかよ。

しかし、私は平山さんと一緒に母、弁護士、司法書士、街金、浦山に会ったが、全部事実だった。かつ、浦川は資産も金もないこともわかった。

借金1億!・・・

といっても実感が湧かない。どこか他人事のような感じ。

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地場相互銀行の取締役だったオヤジは、44歳の時に脳血栓で倒れ、2週間で亡くなった。オレが高2の秋。詳しくは知らなかったが、財産は福岡市早良区野芥にある一戸建て、西新の2LDKマンション、九州シティ銀行の株券が数万株に現金少々。そして福岡市のど真ん中の天神地区、大名に17坪の土地があった。

実は今回の騒動の原因はこの大名の土地だった。この土地は、父と同じく九州シティ銀行の前身である九州無尽の取締役だった祖父から父が相続し、父の死後は母に相続された。

私は知らなかったが、成長著しい福岡都心の土地ということで、バブル時代後半には、なんと坪2500万円の値が付いた。と言っても正式な話ではなく地上げ屋からの話。17坪だと約4億円。

そういえば以前、母との電話の中で、そんな値が付いたという話があったが、私は実家の財産には感心はなかった。私の中では実家とか親とか故郷は年末年始に思い出す程度。

仕事が定まらずに東京や大阪を転々とし、失敗だらけの人生だったが、故郷へのUターンは一度も考えたことはない。

なんとか東京で成功しようと、いつも目の前のことで精一杯だった。

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●狂った母と俺

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それにしても、母はなんで地上げ屋なんかとつき合ったのか。ある日、母をつかまえて尋問した結果は、驚くようなことだった。

出逢いはその7年前。西新のパチンコ屋という。西新とは私が高校まで育った街で、福岡市内では天神・博多駅に続く副都心。昔ながらの屋台も多く出る商店街があり、海も近くて進学校も多い。そこに小中高と過ごした銀行社宅アパートがあったので、私ら家族には第2の故郷だった。

父の死後、1年後に長男の私が大学進学で京都へ。その後、次男も就職で東京へ出た。結果、母は購入した西新の2LDKマンションに一人で住んでいた。「一人」で。

しかし、出逢いがパチンコ屋とは。

俺も昔はたまにパチンコをしたが、基本的にはああいう場所は、不良やダメ人間が行くものと決めつけている。

父の死後も億単位の財産があるので働く必要はなく、私ら子供が巣立ち、暇になった母は自然とパチンコ屋の常連になったらしい。

同じく常連だった浦山と顔見知りになり、ある日、浦山は母に3万円を借りた。が、浦山はすぐに返したという。その後、また5万円の借金申し込みがあったが、これまたすぐに返済された。

そんな貸し借りが何回かあったあと、母は30万円を貸した。すると浦山は期限通りに返済しただけでなく、「自宅にバラの花束を持ってきてくれたのよ~」と母は遠くを眺めながら、懐かしそうに、半ばうれしそうに、後悔もなさそうに言った。

これで母は「落ちた」のだと思った。典型的な詐欺師の手口だ。

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こうして母は浦山と男女の仲になった。浦山は唐津に妻子がいたが、浦山が福岡方面で仕事する場合は母の家に住むようになった。

「パパと好みが似ているのよ。私が作る味噌汁とか料理がうまいうまいって・・・」

私は耳を疑った。

「それにパパは忙しかったでしょ。(浦山と)あちこち一緒に旅行に行って楽しかった」

母の愛の告白。サイテーだ。

私は今回の件で浦山と数回会ったが、その獣のような60男の顔姿を思い出し、かつ、50代後半の母が近年、以前よりキレイになっていたのを思い出した。

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