普通のサラリーマンだった僕が10km以上走ったことないのに1週間分の自給自足の荷物を全て背負って灼熱のサハラ砂漠で250kmを走って横断することになった理由

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スタートから走ってみてわかったことは平地で傾斜がなく地面が固い所ならば走ることが出来るということだ。柔らかい砂地だと、足首が曲がってしまうので激痛でなかなか進めない。


そして今、今回のレースで最大のデューンに僕はいる。デューンとは砂漠と聞いて最初に僕らが想像するような砂砂漠だ。柔らかい砂の山がそびえ立っている。


ここでは走れない。左足を引きずりながら本当に少しずつ少しずつ前へ進む。うつむいているので時々進んでいるのか、砂の山に押し戻されているのかわからなくなる。それでもとにかく前へ進む。一歩一歩。


ゆりっぺはこういうの得意だろうなと思ったら少し笑えた。


僕を追い越す選手達が皆声をかけてくれる。


Shota! Keep going! Keep going!


Shota! Ganbatte!


国籍も何も関係ない。僕らは競争しているんじゃない。仲間だ。



登りよりも下りが辛かった。他の選手は気持ち良さそうに重力に身を任せてすいすいと砂の斜面を滑走して行く。僕は左足を進行方向に対して90度にして、足首ができるだけ動かないように注意しながら慎重に慎重に下って行く。それでも毎度激痛が走る。


痛みに歯をくいしばっていると、あるものが目に入った。めいこがくれたお守りだった。初日にスタートしてから初めてのことだった。久しぶりに見たお守りは砂で汚れ、紐がほつれ、形も崩れ、ボロボロになっていた。それでもしっかりとそこにあった。


そうか、ずっと一緒にここまで歩いてくれたんだ。


その下り坂を降りた途端に、役目を終えたことがわかったかのようにお守りはポロっとリュックから外れた。外れたお守りを失くさないようにポケットにしまうと、涙を流しながら僕は砂の山を進み続けた。



___サハラマラソンスタートまで、あと9日。


2015年3月27日。


出発前に"M"から言葉をもらった。



どんなに準備をしても

"信じる力"を試される。

それがサハラマラソンだ。



"M"は準備しなさ過ぎだったし、僕は素人なりにもある程度の準備はしたつもりだ。本当にそんなことになるだろうか。半信半疑で僕は"M"の言葉を受け取った。



___サハラマラソン 5th ステージ 42.2km。(マラソンステージ)


2015年4月10日、PM3:30。


僕は息を切らしながら走っていた。


信じる力、か。


僕は自分をあまり信じていないことに、このレース中に何度か気がついた。誰かを信じても、自分を信じていない自分がそこにいた。


最大級のデューンを抜けて最後のチェックポイントを通過すると、平らで固い地面が続いていた。3錠までと決めていた痛み止めをもう1錠飲んだ。


行動食は先ほどのデューンで使い果たした。走っている途中で水も尽きた。


意識が朦朧とし始め、身体から力が抜けて行く。


それでも、僕は自分を信じた。必ずたどり着ける。完走できると。


しばらくするとゴールが見えて来た。最後のゴールが見えても感情はあまり動かなかった。


今にも倒れてしまいそうなギリギリの状態でゴールラインを越え、ライブ中継用のカメラを素通りし、水を受け取る。フラフラする。もうじき動けなくなるのがわかる。


ゆっくりとゆっくりと自分のテントに向かう。


遠い。


昨日までよりも何倍も、遥かに遠い気がする。


今にも倒れそうだ。


やっとの思いでテントにたどり着く。


平井さん、じゅんちゃん、がんちゃん、三浦さんがそこにいた。


僕の存在に気づいたテントメンバーが叫ぶ。


メンバー
おおおーーーーーー!!!!!!
いましょうーーーーーー!!!!!!
おかえりーーーーーーー!!!!!!!!
いましょう
ただいま。


大粒の涙を流しながら、僕はテントに倒れ込んだ。



___サハラマラソンゴールから1日後


2015年4月12日。


サハラマラソンを完走して、僕は何を得たのだろうか?

どんな宝物がそこにはあったのだろうか?


ワルザザートのホテルの部屋はwi-fiが使えたので、僕をサハラマラソンにいざなった"M"に完走の報告をした。


おめでとうの言葉に、次の文書が添えられていた。


「ガソリンと電気を使い始めた瞬間から、記憶が変質し始める。」


"M"らしい返事。

レポートは鮮度が命、ということだ。


今日は1日、ホテルの部屋にこもってレポートを書くことにした。


ベランダにはテラスがあり、椅子とテーブルもあるので、気持ちよく過ごせそうだ。


ここから見える景色。砂と岩の山々。緑がないわけではなく、ヤシの木のような背の高い木々も茂っている。遠くには街が見える。


もっと遠く、地球の裏側には自分の街がある。帰りを待っている人がいる。


テーブルにはひとつ、オレンジが転がっている。


僕は宝物を探すのをやめた。きっとその時が来れば宝物は目の前に現れるのだろう。


そう信じて、僕はこの旅の話を書き始めた。

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