映画のつくり方を、僕がこれからも伝えていく理由。

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著者: オリカワ シュウイチ

あれからもう、ずいぶんと、年月が経ちました。



* * * * *



「私、どうしても作りたい映画があるんです!」


その女性のあまりにまっすぐな視線に、僕は思わずたじろぎました。


「どうしても、どうしても、作らないといけないんです!」




赤坂のTV局そばの喫茶店に、僕はいました。


道路に面した窓は開放的で大きいけれど、

外はすっかり薄暗くなっていて、

なんだか喫茶店の中に閉じ込められているような感覚でした。



これから寒くなっていく、という季節。

しとしとと雨が降り続いています。



ちょっと断れない相手に、僕は突然呼び出されたのです。


「久しぶりにね、少しだけ会いたいなあと思ってね」



それなりに忙しく生活していた僕は、

しぶしぶ赤坂の指定の喫茶店に顔を出しました。


そこには、呼び出した張本人と、その隣に

真っ赤な服を着た女性が座っていました。



30代中盤くらいの、地味で小柄な人でした。



僕がカルフの名刺を差し出すと同時に、彼女は言ったのです。


「どうしても、作りたい映画がある」と。




正直、僕はじんわりと嫌な気持ちになっていました。

呼び出された理由が分かったからです。



こいつに頼めば、なんとかしてくれる、

そんな風に言ったのだと、分かったのです。



当時の僕は、ただ、映画を作りたいだけの人間でした。



自分の頭の中に企画があふれかえっていて、

それをどうするか、だけ考えて生きていました。



彼女は続けます。


「これを見てください」


そう言って取り出したのは、分厚い書類。

きちんとタイプされ、写真もふんだんに使われています。


映画の、企画書でした。



僕は、言われるがままにパラパラとめくりました。



タイトルも決まり、登場人物も書き込まれ、

ロケ地候補も決まっているようでした。


彼女は、設定や映画のテーマについてよどみなく話し続けていましたが、


僕は上の空でした。



僕は、自分が作りたいだけであって、他人の映画なんかに興味は無い。



何度か口に出しそうになりながら、

それでも黙って聞くとも無しに聞いていました。


間を取り持った人物の手前もあります。


同時に、仲介した人物にもイライラし始めていました。


俺の時間を、返してくれよ。




ふと、彼女の言葉が止み、視線を感じたので顔を上げます。


この企画、どうですか?


口にしないまでも、彼女の目は明らかにそう問うています。



ロケ地を見るだけでも、日本を半分くらい移動しなきゃいけない。


とても無理だ、と思いました。



でも、無理です、と言う代わりに、

「アドバイスならできますよ、いつでも連絡ください」

と僕は言いました。


そう言えば、この場から早く解放されると思ったからです。



帰りがけに、彼女は握手してください、と言いました。


片手を差し出すと、彼女は両手でがっと握り、

目をうるうるさせながら言いました。


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