我が心の中のみで、どんどんとふくらむ理想の彼女に恋をする『遠距離恋愛ごっこ』②

著者: 鯛下 文太

恋に恋焦がれ恋に泣く


東京でSちゃんに会い色んなところを案内してもらった。


俺のシミュレーション中では二人は電話のようにお互いの話をして、ラブソングのようなデートをする。と思っていた。しかし何か違う。いや絶対に違う!


気づけばSちゃんは俺に一生懸命話かけてくれるのだが俺ときたら、また緊張のあまり地蔵になってしまい情けないことに俺の頭の中は「Sちゃんは俺と付き合ってくれたけど本当に俺のことが好きで付き合ってくれたんだろうか。」など、その場では関係ないことばかり考えてまったくデートを楽しんでいない。


当然Sちゃんも自分ばかり一方的に話かけて反応が薄いのではさぞかしつまらないデートであったろう。


CDショップに入りSちゃんはGLAYの『BEAT OUT』のアルバムを手にして「私GLAYがすごく好きなの」という話をしていた。


シングルコーナーのランキングにはパフィーのデビュー曲〚アジアの純真〛があった。



俺は当時GLAYというバンドがあまり好きではなかった。というのも高校時代カラオケによく行ったのだが友達の不良少年が歌うのは(もちろんGLAYも)ルナシー、布袋、xJAPAN、バクチク、ラルクなど、耳にタコさんウインナーができるほど歌い(しかも下手)原曲をあまり聴かなかった俺はGLAYもその手のバンドだと思っていた。


今考えるとアホらしい話なのだが俺はそれがショックだった。純粋だと思ってたSちゃんがあんな系統のバンドのファンとは!!


俺の中でのSちゃんはドリカムや竹内まりやを聴くような女の子だった。


着ている服も少し派手で俺はそれに少しショックを受けていた。(今考えるととても彼女に失礼な話なのはよくわかる)


結局俺はSちゃんを自分の理想の型にはめて、それと違うとショックを受ける恋愛をするにはまだまだ幼すぎる考えの持ち主であった。


その日、俺はほとんど自分から話かけることもなく駅のホームまで見送ってくれたSちゃんと別れて

家に帰った。


その日の夜にSちゃんからポケベルで〚付き合うのやめよう〛とメッセージがきた。


俺はその後Sちゃんに電話した。Sちゃんは俺の言葉に消え入りそうな声で「ごめんね」とだけ言った。


こうして俺の最初で最後の遠距離恋愛は幕を閉じたのであった。










著者の鯛下 文太さんに人生相談を申込む