偶然の再会と、手紙


2週間の出張が終わった。予想していたより全く疲弊していないので、思ったよりすんなり日常生活に戻れる気がしている。何事もなく無事、宮崎の土をふたたび踏めた事に、ただただ感謝である。ひとまず、先祖の墓に手を合わせに帰省した。

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2015年10月3日。

2月にこの会社に転職してからというもの、毎日慌ただしい日々を過ごしていた。2週間もの出張をようやく終えて、いつの間にか秋を迎えていた宮崎へ戻るべく、京急で羽田空港へ向かった。

搭乗開始時刻は、定刻。僕はきまっていつも、後方座席の窓側の席を希望する。

機内から外を眺める事が好きで、フライト中は特にトイレに立つこともないし、何より窓からみえる景色を自分の目と、そして写真におさめたくていつも「後方座席・窓側」を選んでいる。この条件さえ整えば、とても嬉しくてわくわくする。

ただ一つ、不平を漏らすとしたら、過食がたたった僕の体型は肥満体型そのもので、通路側に既に他の乗客が座っていた場合、すり抜ける事ができないので、一度通路側のお客さんに通路に立ってもらう必要がある。

トイレから戻る時、

通路側に座っている方に対して申し訳なさを感じながらも、おそるおそる


「すいません、少しよろしいですか?」


と声をかける。僕の祖母より少し若いくらいのその女性は、快く僕を窓側の席に通してくれた。そして少し微笑みながら


「あなた、半袖なのね。寒くないかしら?だけどお元気そうね」


そういって僕に愛想をふりまいた。


「あ、そういえば少し、肌寒いかもしれないですね、、」

と僕は答えた。

この2週間の出張は体力勝負そのもので、1日中立ちっぱなしで商品を宣伝するというものだった。

京都や名古屋、静岡を数日単位で移動していた僕には既に、季節を感じる感覚だとか、季節に対して思索を巡らせる心の余裕なんてものがなかったのかもしれない。

だからよりによって、帰りの飛行機の中で、他の方に指摘されるまで、秋が来た事に気がついていなかった。途端に寒さを体で感じ、少し鳥肌がたった。


僕が季節にそぐわない恰好をしていたおかげ(?)で、隣の席のYさん(仮名)との会話が始まった。


Yさんは千葉に住んでいて、宮崎に住むお孫さんの運動会を見学しに行く、との事だった。既に旦那さんは他界されていて、家族同然のチワワと宮崎へ向かうとの事だった。


ひょんな事から、Yさんと旦那さんの馴れ初めの話になると、Yさんの目がさらにいきいきし始めた。

2人の馴れ初めは、こうだ。

お互いに中学の同級生。学校を卒業してから、手紙のやりとり、いわゆる「文通」が始まり、そのやり取りを通して、10年越しにゴールインしたそうだ。


旦那さんはとても誠実で熱い男で、もともと銀行マンであったが、知り合いの赤字経営の会社の立て直しをお願いされ、銀行を退職し、まったくの別業界の社長に就任。


Yさんが毎回受け取る手紙の内容も、人生論だとか、生き方、自分の夢や目標が熱く記してあったそうだ。そんな文面からも旦那さんの人となりが伺え、Yさんも徐々に旦那さんに惹かれていったのかもしれない。


旦那さんが譲り受けた会社の業績は、当初の数年は苦しかったが、念願叶い、さらに数年後、赤字経営を立て直し、株式上場までやってのけたというのだ。


毎日旦那さんの帰りは深夜を過ぎ、それを支えたYさんもなかなか、大変な日々だったと話をしてくれた。


親戚にも経営者が多く、もしやYさんの旦那さんの熱い血を引いているのでは、とふと思った。

唐突にYさんから、

「あなたは、ご結婚はされているのかしら?」

と僕に質問をした。僕は、痛いところをつかれたなぁ、という顔をしながら、


「いいえ、まだです」と答えると、


「きっと、あなたならいい人がみつかるわ。人生はタイミングだもの」


そういいながら、お孫さんの為に買ったであろう、甘い焼き菓子を僕にわけてくれた。


旅の終わりもあいまり、なんだかナチュラルな優しさに対して、目の奥がじんとした。これがいわゆる、感極まったという感情なのかもしれないと思った。


あれやこれや、話をしている間に、飛行機は宮崎空港に向けて降下を始めた。


「楽しい時間をありがとうございました」


Yさんはそういって、優しい笑みを浮かべた。優しくしなやかな眼差しだが、芯の通った人だった。


これも何かのご縁だから、とお互いに連絡先を交換し、それぞれの目的地へ向かった。


宮崎空港から家に向かう車の窓から、すっかり秋めいた宮崎を眺めながらふと、文通の話を思い出す。

ラインや携帯電話、SNSの無い時代。電話も容易にかける事は出来なかっただろう。

当時、お互いに離れて暮らしていたであろう、夫婦や恋人同士のさまざまが、頭を巡った。

日本中の人間同士のドラマが紡がれ、いまに繋がっている。


ーーーーーそうしたら、僕の人生は?


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翻って、2015年10月1日。

2週間もの関東出張も後半にさしかかり、両足には適度な疲労感を携え、雨の静岡を歩いていた。

取引先の担当者の方に、「このビルの地上出口を左に出たところに100均があるよ」と教えてもらっていたので、雨に濡れないよう、屋根のある道を歩いて、うつむきながら歩いていた。

教わった通りに歩いても100均らしき建物も見当たら無いし、雨もやむ様子が無いので、タクシーでもつかまえて一刻も早くホテルに戻り、缶ビールを飲もうと考えていた。

するといきなり、正面から4年ぶりくらいに聴き慣れた声がした。


「山下さん?いや、松下さん?」


なんだか聞き覚えのある声に、僕は振り返った。


そこに立っていたのは大学時代の後輩で、特に連絡もとっていなければ、卒業以来3年以上も会っていないし、卒業してから私の体重は10キロ以上太っていたので、街で誰かに会ったとしても誰も僕の事はわからないだろうと思っていた。

大学時代の面影も無いであろうに、雨の暗がりで良く気づいてくれたなあ、としばし呆然としながら、

「うわー、まじかーーーーー」

と言葉にならない、声のようなものを辺りに投げ散らかした。

投げ散らかす声も、時間ももったいないので、近くのコーヒー屋に入った。

大学時代、お互いに学園祭の運営に携わっていたので、思い出話をするうちに、当時の記憶が手に取るように蘇った。

彼女は僕が引退する時に、その感謝の気持ちを手紙に書いて僕に渡してくれたのだった。

ちょうど半年ほど前に僕が、「人間いつ死ぬかわからないから、荷物の整理しとこう」と思い立った時にその手紙を読み直したばかりだった。


彼女も充実した人生を送っているようで、もちろん僕に書いてくれた手紙の事も覚えてくれていた。けどやはり、いざ面と向かってその手紙の話題を出す事はじつに照れ臭く、それ以上はふれなかった。


再会を約束し、各々の家路についた。あまりにも偶然の再会だったから、とても気分がいい。買うはずだった傘なんてどうでもよくなった。帰りにキャッチのお兄さんにつかまって得体のしれないバーに入った。お会計が予想していたよりも高い。ラーメン4杯分くらい損をしたけどそんなに気は悪くなかった。


出張を終えて宮崎の自宅に帰り、家の奥の方にとじてあったダンボールに久しぶりに手をかけた。

出てきた手紙に関連して、僕が小学校2年生くらいにもらった手紙から始まり、これまでの人生の中で、色々な人たちからもらった手紙が溢れ出るように出てきた。

転校していった友達からの手紙。もらったラブレター。書いたラブレター(なんで手元にあるの?)、先輩、後輩、バイト先、寄せ書き、サイン。

色んなストーリーが、当時の記憶を思い起こさせる。


手紙は、その人の分身のようなものだと僕は感じている。なぜなら、限りある人生の中で、手紙を書く事はそう簡単じゃないし、時間もかかる。その時間を、生命を、僕に対して割いてくれたのだから、その手紙はもう、「その人そのもの」だと思っている。


手紙は、当時の書き手の気持ちがこもったまま、例えば引き出しやダンボールの中に、ひっそりと息を潜めている。そしてその手紙を読めば、いつでもその瞬間にたち還る事ができる。


ここ数年、「絶対に過去は振りかえらない」と決めていた。思い出話が話題の中心になるような、なんら生産性のない、同窓会みたいな集まりに出席する事は極力避けてきたのだった。だけど、案外そうでもなかった。

再会は未来への活力になる。


手紙って、いい。

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10月5日。


またも偶然の再会を果たす。

数年前、仕事をしていた時のお客さんだった。退職した後は、仲の良い友人として、尊敬できる先輩として繋がりを持っていた人だった。


僕が前の会社を退職して、これからの人生の指針を再設定しようとした時に親身になって話を聞いてくれた人だった。お互いに無職だったが、それぞれの未来を語り合った。僕がヒッチハイクに挑戦したいと話した時の、最後の一押しをくれた人だった。


そして現在は、お互いに夢や目標に近い環境で仕事をし、暮らすことができている。


大げさにいうと、偶然に人と再会したり、もらった手紙を読み返していると僕は確かに「生きていた」し、「生きててよかったな」と感じる。


じんわりきたり、胸が痛くなったりするから、すべての手紙を読む事はできないけれど、今度久しぶりに、手紙をかいてみようと思う。

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