〜共感覚を使って愉しむ豊かな生活〜
ファンタジアンとしての生き方
共感覚を持つ作者が日常的に味わっている
感覚の面白さを物語にしました。
共感覚とは例えば文字や色などから音を感じたり
目で見たもの(車やピアノ、人など様々なもの)に味や色、
音などを感じたりする感覚のことです。
数字に色を感じるとか音に色を感じる人、
触れなくても触れることができる共感覚の人。
さまざまな感覚を持って生きている人がいます。
主人公の柚子は共感覚を持っているために
大変ユニークな生活をしていました。
ちょっと気難しくてちょっと可笑しい
柚子の不思議な暮らしぶりは...
声の色 数字の色
無印で買ったリネンの紺色のストールを
くるりと巻いて自転車を漕ぐ。
柚子が今日着ているのはグレーがかった紫の
薄手のコットンのセーターに
生成りの白い麻のスカート。
たっぷりとひだをとったスカートは足首まであって
これをはくと柚子は自分が小龍包になったような気がする。
スカートの下はグレーのタイツ。
ぺたんこの白い革靴はひもできちんと結んである。
さて、今はカイロプラクティックに行った帰り。
柚子は週に1回、そこで骨を矯正し
マッサージでほぐしてもらうことにしている。
今日はヘアトニック味の吉野くんが担当してくれた。
吉野くんの声は苦くて涼しい冷たさで、
色はヘアトニックのグリーン。
でも最近、吉野くんの色は変化した。
グリーンは淡い薄荷色になって苦みが薄らいでいる。
なんでなのかは柚子にもよくわからない。
武くんは(他の誰からも武くんと呼ばれている)
灰が混じっている黒っぽい青で味は甘み。
でも和三盆みたいなあっさりした甘さ。
あんこが似合いそう。。
彼は鍼やお灸だけでなく様々なことに興味があって
研究熱心な若者だ。
山吹くんはサーモンピンクで味はお酢。
彼をみるとつい蛸の酢の物を思ってしまう。。
今日は耳の遠いおばあちゃんに大きな声で一生懸命説明をしてた。
「片瀬さん!わかりましたか〜?
右手を上げてみてください。違う、右。み・ぎ・て!
はい、もう一度やってみましょうね〜」
おばあちゃんの声はさっぱり聞こえないが
彼が右と言うたびに
柚子の頭の中に数字の2が赤でちらつく。
左なら青で数字の1なのだけど。。。などと考える。
柚子の感覚では数字にも
固有の色があることになっている。
1は明るい青で左
2は赤で右、
3は黄色
4は青みがかった紫(柚子の母はすみれ色と呼んでいた)
5は濃い青、
6は白、
7は白っぽい緑
8は茶色、
9は黒
0は透明だった。
シャネルの5番という香水はきっと濃いブルーの
イメージなんだと勝手に思い込んでいる。
一般に青は自我を表す色でもあるし、
毅然としたシャネルのイメージにぴったりだったから。
柚子は肩こりがひどく、すぐに疲れてしまうので
ここでの調整はとても大事にしていた。
吉野君の治療は丁寧だった。
「目が疲れていますね。」と言って
頭の後ろをほぐしてくれる。
終わると肩こりもやわらぎ、
気分がとてもよくなっているのが嬉しい。
まだ午前中なのに待合室はいっぱいで、
柚子は土曜日にまた来ますと約束をしてすぐ外に出た。
毎日の暮らしでいつもいろいろな感覚が
覚醒していると疲れやすいのは事実だ。
柚子は自分の感覚をときどき自分で
遮断することにしていた。
ちょっと深呼吸して一瞬目を閉じる。
すると、頭の後ろの方でガラガラ〜っと
シャッターが降りてきて色や味や音などの
感覚からちょっとだけ自由になれる。
この方法はカウンセリングを受けたときにヒントを得て
柚子が自分で体得したものだった。
このやり方に慣れてくると、以前よりは少し
暮らしが快適になった気がする。
情報処理がすくなくなれば脳も休まるからだろう。。
花屋の前で自転車を止めると、柚子はすみれの花を
一鉢買った。しなやかな茎の先には
かわいらしいすみれの花がたくさん咲いている。
右脳の色 左脳の旋律
サルトルで眠れない♪〜
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