2進数を語った男

著者: 高津 諒

上野駅 こいつは入り口と出口だ

東京駅よりも がさつで

帰郷までの時間を待つ者もいれば

これから 

どこへ向かうか 酒とともに思い巡らす者もいる

ガヤガヤガヤ カチャカチャカチャ

雑踏と グラスが テーブルを行ったり来たり

皆が一様に奏でた 不協和音に身を寄せる


私の席の隣には 紳士とは程遠い男性が

ウィスキーを 熱燗をチェイサーに飲んでいた

その男性の唯一の欠点と利点は

そう 絡み酒だ

私は一方的な彼の話を飲み干していたのだが

次の言葉に グラスを置いた


「例えば、ブール代数だ

 2進数であらゆる演算ができるって発見したやつがいた

 お前さん 2進数なんてやったか?

 2進数で学校は全部の計算したか?

 しなかったろう それにいらないもんだってな 日常的に

 当時、それを考え付いた奴に対して周りも だから何だよ だったはずだ

 一部を除いては 

 結局、その発見のおかげでコンピュータはみんなに広まった

 そういうもんだよ

 全員がまるっと歓迎することは難しい

 でも、一部には受け入れられるかもしれない

 もし、その一部が、何かをまたそこから生み出す、派生させるかもしれない

 なんにせよ

 俺はわかりにくいかもしれないが

 こう言いたいんだよ

 誰かに必要とされなかったとしたら

 他でお前さんは必要とされんだよ

 そのバスに乗らなきゃいけないって理由もないんだわ

 どうすんの?いっちゃうよバス!

 行かしちまえよ 次のバス来るんだから

 それに、バスしかないってわけでもないんだぜ

 日常が2進数を10だの16進数に変換させちまうが

 ただのI/O

 やるか やらないか

 やりたいか やりたくないか

 時には 感情に身を任してもいいわけよ

 そいつが俺の2進数よ

 で、お前さん なんか悩みあんのかい?」

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