百年の孤独

著者: 古田 博久

百年の孤独

最高にうまい焼酎です。

この酒には思い出があります。


~~~~~~~~~~~~


26歳の冬の日のこと。


名古屋に雪が降った。


仕事の帰り道は凍結。


僕の車は鳴海の坂を登りきれずに立ち往生。


為す術もなく、車を路肩に止めていると、坂の上から車が滑って来た。


コントロール不能になった車は、そのまま僕の車にぶつかって止まった。



やってまった・・という顔で出てきたおじさん。


僕も上から来たら同じことだったでしょう。


仕方ないかと思い、少し話をした。



ただ寒くて寒くて。


聞くと、おじさんの家は、わずか30メートル先。


うちにおいでと。


どうせ、帰られへんし。


ぶつかったまま車を放って、僕たちは歩きだした。



人の良さそうなおじさんはアパートに一人暮らし。


車をあててしまったこと、やはりバツが悪い。


おじさんは、


気を遣って、べらべらしゃべる。


台所をごそごそしだしたおじさん。


戻ってきた手には、紙に包まれたビン。


【百年の孤独】


とっておきの酒だ。


2人で飲もう。


奇妙な初対面の二人は、薄暗い電球の下、飲みはじめた。



おじさんは、沖縄の人。


テレビの横には、女の子の写真。


離婚して、女の子は沖縄にいる。


大好きな娘の話。


止まらない。



うまい酒が回り、


まだ子供のいなかった僕も、


切なくて、泣けてきた。



なに話したんだろ。


一日中働いてきた二人は、


酔いつぶれて、


知らぬ間に寝てしまった。



朝、僕は、


おじさんのかけた目覚ましで先に起きた。


僕がおじさんを起こしたら、


はっとして、


寝てもうた。


すまん。すまん。。。



いや、ええですよ。


僕も寝てまったから。



したら、またまた


はっとして


電話し出した。



好きな人がおるんやと。


昨日は電話する約束だったと。


そこでも


すまん。すまん。


僕は、なんだか嬉しくなって。



2人で車を取りに行った。


朝日が差し、路面も溶け始めていた。


車を引き離し、


わずかにへこんだ2人の車を見て、


おじさん、ええですよ。


このままで。



その車、手放すまで、結局直さなかった。


直さなくていい傷もあるわなと。



今日、1人で


百年の孤独を飲んだ。


琥珀色の酒。


おじさんと飲んでる気がする。



東京に出てきた僕は、


故郷に思い出がいっぱい。


それを感じさせてくれる東京が好きになってきた。


おじさんも、名古屋も、東京も、


ありがとう。


著者の古田 博久さんに人生相談を申込む