恋愛コンプレックスがくれたご褒美
母親は重度のブランド品依存症だ。
海外高級ブランドで自分を着飾り、武装して他者に自己顕示すること
それが母の最大の自己防衛手段だった。
実家はさして広い部屋ではないのだが、
そこに、まるで質屋の如く高級ブランド品の箱が
人間の身長より高く積まれ、狭い部屋をさらに居心地悪くしていた。
たった一人の女性が
しかも、仕事もしてないので外出の機会なんか一般で言えば格段に少ない方に入る女性が日常で
そんな大量のブランド品の在庫を使いきれるワケがない。
当然、ほとんど使わないもので溢れている。
バカげた量の私物を抱えて、彼女のおでかけの機会のほとんどが
銀座の高級ブランド店に愛車のベンツBRUBASで乗り付け
スタッフさんにその日のコーディネートをお褒めいただき、それがガチガチの営業トークである、とすら気付けずに ご満悦になって帰宅する。
その自慢話を僕に聞かせ、必ず「アタシはやっぱりセンスがあるから、ファッション関係の仕事をしていたら絶対成功していたと思うの。ね、そう思わない?」と〆る。
それが母親の日常だった。というか、それしか、母親にはやることがない。
そんなにファッション業界の仕事がしたいなら、買う側じゃなくて作る側になればもっと満たされる。
そういう考えを微塵も持たず、誰かにソレを突っ込まれようものなら自らを正当化し、今からじゃ遅い、とか、本当はやりたかったのにやらせてもらえなかった、などの言い訳で武装したあげく
非常に不機嫌になる。
僕はそんな母親が大嫌いで、高校時代くらいには
絶対に母みたいな人間だけには!なりたくない!
内心、強く思っていた。
その僕が、成人してから、まさか自身も母とこれまた同じように
洋服に狂ったように取り憑かれるだなんて
自分ですら想像することももちろん不可能だったに決まっている。
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