インドの洗礼 第2章 その4 〜ルーとクレーンゲームと

著者: 鎌田 隆寛

目の前には、カレー。

チャイを流し込み、胃袋は臨戦態勢。

固唾を飲んで見守る、オッさん達。

舞台は整った。

いざ、実食。

まずは恐る恐る右手をカレールーに差し込んでみる。

ふむ。

慣れてないと熱くて火傷すんじゃないかと思ったら、そこはやはり適温。

手ですくい取るには熱すぎず、食べるには冷たすぎず、いい塩梅。

少量を掬い取り、クレーンゲームよろしくご飯の山の麓に投下。

そのまま指でルーと米を馴染ませてみる。

カレーを手でこねくり回したのは、下の息子くらいの時までだったんじゃないかなー。

違和感があったのは最初だけで、後は懐かしいような新鮮さでなんか楽しかった。

ご飯とルーを半々くらいの割合で手に取り、頬張ってみた。

ぬおっ。ウマし。

現地人向けなのか、かなりなんかのスパイスが濃いめでクセはあるんだけど、美味い。

自分の指をスプーンがわりに使うことで、改めて食事とは五感で味わうものだと再認識した。

日本のと違い、サラリとした細長いコメは、カレーに浸すとホロリと崩れる。

程よい弾力のチキンと、トロトロに溶けてツルッとした野菜も手触りが楽しい。

口に運ぶ前に、指ですでに「味わって」いる感覚。

普段カレーを食べる時に使わない「触感」が、「食感」と融合して本能を刺激する。

友人2人も、隣でやべぇやべぇ言ってがっついていた。

ドヤ顔で見守るオッさん達の目が、優しい光でそれを包み込む。

指先にまとわりつくカレーと米を舐りつつ、次から次へと口に運ぶ。

そして、新しい感触に感動冷めやらぬまま、完食。

お値段聞いてまた感動。日本円で10円いってない。

この異次元のコストパフォーマンスときたらどうだ。

いやー満足満足。

少し多めの代金を、屋台のテーブルに置く。

主人も満足満足。

代金を払う時、自分の食い終わった皿がふと目に止まった。

ハエが一匹、止まっていた。

続く

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