闇を切り裂きタブー解禁。15年間書きためた原稿がやっと本になった出版記念に、実家のお寺で緊縛イベントをやってみた。

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あんまりに、気持ちが張りつめる私を見かねてか、

双子役で参加してくれている、野村さんが

「散歩にいかない?」

と、誘ってくれた。

ここのお寺のすぐ裏は、森になっている。

森のてっぺんには、神社がある。

私とのむらさんはモリの頂上にのぼった。

人がいない森の神社。

大きく深呼吸。

私は、張りつめていた緊張感から

ずっと、呼吸を忘れていたような状態が続いていた。


野村さん
すごいことをやろうとしているんだと思うよ。
先祖代々の何かを癒す儀式みたいになるんじゃないかな?


そう、言ってもらったとたんに、

私の目からは堰を切ったように涙が出た。

地震以来、手伝うこともせず、

参加していなかったイベント

「モリノネ」

Happy Island という自分の本がきっかけになったにもかかわらず

関わることをやめてしまっていた。

大好きなふるさと福島の何かが壊れたように感じて。

でもそれは、たんに自分自身が壊れていたのかもしれない。

そして今、本を出版したことで、

もう一度、出発点にもどってイベントさせてもらう。

非常識なことをやろうとしているにもかかわらず、

みんな暖かく迎えてくれている。

このことが、自分にとってどれほど大切で、

意味のあることか。

私はひたすらその長年の思いを吐き出した。

野村さんは横でただ黙って聞いてくれていた。








出版社から担当の金川さんが来てくれて、

受付をしてくれる。

この人が来てくれたからには、

私はとても安心してイベントをすることができる。

いよいよ準備開始。

レトロ感を出すために、

着物のインパクトが薄いということで、

裏森当日、その場で生地を買いにいってくれたミッチー。

しかも、なんと、着物のエリに生地を縫い付けてくれて、

すごい、さすがの手際。

ぐっと、レトロな時代感がでてきた。

さらにミッチーにメイクをしてもらって、

着物をきつけてもらって朗読者がしあがっていく。

まわりのみんなも、それぞれ衣装にきがえて、

スタンバイオーケー。

いざ、本番がはじまる。




本番。

舞台の切り替えに

電気をつけたり消したりする

照明係を両親に頼んでいた。

朗読の内容は、

父親が娘を殺してしまう話。

それを娘である私が朗読して

父である住職が照明をしているというのは

これまた、なんとも言えないシチュエーションだ。

父も、何かをいろいろと感じている様子。

ほんとうに、お寺にとっても

私たち、僧侶という系譜にとっても

家族的な、浄化のような気がした。





本番。

集まってくれたお客さんは40人くらい。

ものすごい、緊張感。

挨拶をはじめても、

いったい、何がはじまるんだ?

という空気感は、より大きなウェーブとなった。

その波にのって、

朗読がすべりだし、

ヴァイオリンが入り、

舞台が動き出した。

裏森。

今まで重ねてきたリハーサル通り、

朗読、ヴァイオリン、縄、双子、ポテト男、照明、

すべての演出が一つになって、

陰の極み、

のようなすごい世界観が表現できた。

双子が持つ薄いベールを、縄者が切り裂くシーンがある。

それは、とても象徴的で、

なにかの幕開けのような。


大きく、蓋をしていたところが開いて

どばどばと、膿みが出て、血が通い

海が広がったような、

新しい世界がはじまったような

そんなシーンだった。





急遽、モデルになってくれた、みっちゃん。

なぜか、私は今回の縄のモデルが

お寺のひとじゃなきゃいけないような気がしていた。

そうじゃなきゃ、もたないような

そんな気がして。


「僧侶という男の世界で、

ずっと声にならなかった声、

とくに女性の声を代弁したようだった」

と、のむらさんに言ってもらった通り。

お寺という場所で

普段は表に出ない、女性たちが

主人公になり、その声を表現した。




5年ぶりに参加した、モリノネ。

そして、はじめておこなった裏森。

それは、私たちの連綿と続く

女性性の新しい可能性が開いたような

そんなイベントになった。


短編集トウモコロシより

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