闇を切り裂きタブー解禁。15年間書きためた原稿がやっと本になった出版記念に、実家のお寺で緊縛イベントをやってみた。
☆
あんまりに、気持ちが張りつめる私を見かねてか、
双子役で参加してくれている、野村さんが
「散歩にいかない?」
と、誘ってくれた。
ここのお寺のすぐ裏は、森になっている。
森のてっぺんには、神社がある。
私とのむらさんはモリの頂上にのぼった。
人がいない森の神社。
大きく深呼吸。
私は、張りつめていた緊張感から
ずっと、呼吸を忘れていたような状態が続いていた。
先祖代々の何かを癒す儀式みたいになるんじゃないかな?
そう、言ってもらったとたんに、
私の目からは堰を切ったように涙が出た。
地震以来、手伝うこともせず、
参加していなかったイベント
「モリノネ」
Happy Island という自分の本がきっかけになったにもかかわらず
関わることをやめてしまっていた。
大好きなふるさと福島の何かが壊れたように感じて。
でもそれは、たんに自分自身が壊れていたのかもしれない。
そして今、本を出版したことで、
もう一度、出発点にもどってイベントさせてもらう。
非常識なことをやろうとしているにもかかわらず、
みんな暖かく迎えてくれている。
このことが、自分にとってどれほど大切で、
意味のあることか。
私はひたすらその長年の思いを吐き出した。
野村さんは横でただ黙って聞いてくれていた。
☆
出版社から担当の金川さんが来てくれて、
受付をしてくれる。
この人が来てくれたからには、
私はとても安心してイベントをすることができる。
いよいよ準備開始。
レトロ感を出すために、
着物のインパクトが薄いということで、
裏森当日、その場で生地を買いにいってくれたミッチー。
しかも、なんと、着物のエリに生地を縫い付けてくれて、
すごい、さすがの手際。
ぐっと、レトロな時代感がでてきた。
さらにミッチーにメイクをしてもらって、
着物をきつけてもらって朗読者がしあがっていく。
まわりのみんなも、それぞれ衣装にきがえて、
スタンバイオーケー。
いざ、本番がはじまる。
☆
本番。
舞台の切り替えに
電気をつけたり消したりする
照明係を両親に頼んでいた。
朗読の内容は、
父親が娘を殺してしまう話。
それを娘である私が朗読して
父である住職が照明をしているというのは
これまた、なんとも言えないシチュエーションだ。
父も、何かをいろいろと感じている様子。
ほんとうに、お寺にとっても
私たち、僧侶という系譜にとっても
家族的な、浄化のような気がした。
☆
本番。
集まってくれたお客さんは40人くらい。
ものすごい、緊張感。
挨拶をはじめても、
いったい、何がはじまるんだ?
という空気感は、より大きなウェーブとなった。
その波にのって、
朗読がすべりだし、
ヴァイオリンが入り、
舞台が動き出した。
裏森。
今まで重ねてきたリハーサル通り、
朗読、ヴァイオリン、縄、双子、ポテト男、照明、
すべての演出が一つになって、
陰の極み、
のようなすごい世界観が表現できた。
双子が持つ薄いベールを、縄者が切り裂くシーンがある。
それは、とても象徴的で、
なにかの幕開けのような。
大きく、蓋をしていたところが開いて
どばどばと、膿みが出て、血が通い
海が広がったような、
新しい世界がはじまったような
そんなシーンだった。
☆
急遽、モデルになってくれた、みっちゃん。
なぜか、私は今回の縄のモデルが
お寺のひとじゃなきゃいけないような気がしていた。
そうじゃなきゃ、もたないような
そんな気がして。
「僧侶という男の世界で、
ずっと声にならなかった声、
とくに女性の声を代弁したようだった」
と、のむらさんに言ってもらった通り。
お寺という場所で
普段は表に出ない、女性たちが
主人公になり、その声を表現した。
☆
5年ぶりに参加した、モリノネ。
そして、はじめておこなった裏森。
それは、私たちの連綿と続く
女性性の新しい可能性が開いたような
そんなイベントになった。
短編集トウモコロシより
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