フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第6話

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話題はもちろんミューズの紙面を飾ったことだった。

皆、興奮気味に由美を讃えていた。

私は入学当初から知っているが

由美が雑誌に載るのは今回が初めてじゃない。

彼女の雑誌に載るための執着はかなりのものだ。

高校生の頃から街角のスナップ写真風ではあるが

ちょこちょこ登場していた。

もっとも陰では専属モデルになれないからって涙ぐましい努力と囁かれていたが


でも今回は話が違った。

何と言ってもミューズは今、若い子の間で売れ筋ダントツの雑誌なのだ。

私は少し離れた席に腰を下ろし手帳を広げた。


講義のあと、私が席を立つと由美が駆け寄ってきた。


「ね、桃子今夜空いてる?」


「ごめん予定があるんだ」

今夜ももちろん『パテオ』に行く。

何しろ私は借金を背負っているのだから。


「えーーッ。ねえねえっ  なんとか調整できない?!

  今夜の相手、全員 医大生だよ!」


「ごめん、もう約束してるから」


「ええーーもうっ。絶対後悔するよ?!いいの?!」


由美はしばらく、ああだこうだと今夜の合コンの素晴らしさを説いていた。


どうせ数合わせで声をかけてきたくせに

シラけた気持ちで一通り聞いた後で

私は笑顔でゴメンねと言って教室を出ようとした。


「あ、桃子  待って」


私は振り返って由美を見た。

由美は少しだけ決まり悪そうに言った。


「桃子、怒ってない?」


「何のこと?」


「だから〜、  アレだよ。ミューズ」


「ああ」


「たまたま私が名刺持ってたでしょ。だからってわけじゃないけどさ、

  結果的に私だけ載っちゃったじゃない?

  でもね、なんか一人いれば十分って空気だったんだよね。だから

   あえて桃子には連絡しなかったのね」


名刺をもらったのは桃子なのに

とは言わなかった。


でも

もういい、どうってことない。


「いいって。気にしてないよ。見たよ、 すごく可愛く撮れてたね」


すると由美はパッと表情が明るくなりニッコリ笑って言った。


「ンフフ〜♫、実は自分でもそう思った」


私もニッコリ笑って彼女に背を向けた。



また夜が来た。

レッスンの後、化粧室の個室に入っていると

こんな声がした。

「あいつ、マジでお荷物だよね。なんでダンスメンバーに選ばれたんだろ」

「なんかさ、噂だけど玲子さんの紹介らしいよ」

「えっ、それなんかヤバいんじゃない?」



ヤバいって?

私には全く何のことだかわからなかった。

客を送り出すため店の外に出た時

大学生らしき男女のグループが通り過ぎた。

一瞬、由美達ではないかと焦った。

この派手な柄に胸元が大きく開いたキャミソール姿を見られたらもうおしまいだ。

すぐに人違いとわかってホッとする。

事実、そう遠くない場所で彼女は医大生達と楽しく飲んでいるだろう。

今さらだが、改めて彼女との立場の違いにため息が出た。



地下の店へと続く階段の下から


「杏さ〜ん」


と呼ぶ声がした。

私はヒールを鳴らしながら階段を駆け下りた。

この日私は初めて指名客を取ることができた。





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