フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第9話

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「お前もよ〜俺の女になればあ?」



背後からの佐々木の野太い声に

私は一瞬、足を止めそうになったが


歩みを止めずそのまま佐々木から離れていった。


動揺したのではない。

どんな顔で言ったのか見てやりたかっただけだ。




待機席で客からのメールをチェックしていると

目の前にタバコが差し出された。

振り向くと隣でミホがちょうど鼻から煙を出していた。


私は思わずプッと笑った。


「ありがとう」


私はそれを受け取ると当然のようにミホに火をつけてもらった。

少し咳き込みながらも、また口に運ぶ。

当時はほとんどのホステスが喫煙していた。

話が途切れたり、手持ち無沙汰の時

タバコに火をつける仕草は

とても自然だった。

客に火をつけるために持っていたライターで

気づけば私も自分のくわえているタバコに火をつけていた。


数ヶ月前じゃ想像もしていなかったことだ。


染まるってこういうことを言うんだろう。



その時、頭上からボーイに呼ばれた。





席まで案内され戸惑った。


グラス片手に和かに座っていたのは飯島だった。


初日、ショーの最中、私の太ももを触った初老の大学教授だ。


もちろんいい印影ではなかったが、ニッコリ挨拶して隣に座った。


でも、私が戸惑ったのはそんなことではなかった。


飯島には指名して半年以上になる

イズミというお気に入りのホステスがいるのだ。



私は飯島と乾杯し、ウーロン茶をひと口飲んでから聞いた。


「あの、なぜ私を指名してくれたんですか?」


すると飯島は何食わぬ顔で


「イズミ、今日休みだしさ」


「でも…」


「だって杏ちゃん、可愛いしいい子だし。

いいじゃない。指名したって」


飯島はすでにほろ酔いで、いつもの気取った紳士っぽさがなかった。


「ショーもね、最近良くなってきたよ。

  なんか一生懸命で応援したくなるよ。見てるうちにね、

  何か気持ちを抑えられなくなってね」


飯島は、今でいうAKBファンの1人みたいなことを言っていた。


「それにさあ、正直言ってだよ。イズミにはガッカリしてるんだよ。

   まあ、人気があるのは分かるけどあっちの席、こっちの席って

   行ったり来たりで。目の前でよその男どもに愛想振りまいてね。

   それでいて行かないと   寂しいだの。会いたいだの」

  

 

  そんなもんだろう。ホステスなんて。

    あんただって それ知ってて来てるんじゃないの?

飯島はまだブツブツ言っている。

「最初は杏ちゃんと同じ、この店の新顔で可愛かったよ。

   でも最近は馬鹿馬鹿しくなってきてねえ。こっちは忙しい合間を縫って

   それだけの料金を支払って来てるのに」


あ〜あ、馬鹿馬鹿しいのは今のあんたの熱弁だよ。

天下の有名大学教授がね


でも…よくよく考えたら今週はこれで指名が10件を超える。

もしかすると時給が上がるかもしれない…


私は、もうイズミの話題には触れず飯島の話に耳を傾けるようにした。


時折、私の腰に手を回したりしてきたが

さりげなく交わして、何とか楽しんでいる風に装った。

その甲斐あってか帰り際、飯島に

「また、会いに来る。杏ちゃんのためだけにね」

と言われた。


結果、私の時給は200円だけUPすることになる。



その時、私はまだこの世界の裏のことを何も知らなかったし

ただただ甘かったのだと思う


私は気づいていなかった。

そんな私を憎しみをこめた目で見る者たちがいることを。










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