フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第11話
よく、どうでもいい会話をするようになっていた。
考えたらこんな軽口を叩ける相手は東京に出てから初めてかもしれない。
「いろいろムカつくんだよね。上手くいかないこと多くて」
「アンタでもそーなのお?そんな風には見えないけどねえ」
ミホは真っ黒に縁取られた黒目を瞬いた。
「指名だって取れてるし、な〜んか玲子さんにも気に入られてるぽいじゃん」
指名なんて取れてるうちに入らない。
週に10本以上取らなきゃ意味ないのに全然とどいてないし。
ナンバーワンのミサキさんなんて日に10本取ることだってあるらしい。
ミサキはショーでももちろんセンターだ。
スタイル抜群でダンスのレベルも高い。
漆黒のロングヘアと人形のような顔が売りだ。
ここ半年は不動のナンバーワンらしい。
ホステスの間では、ミサキのことを24歳と言ってるが何歳かサバ読んでるだとか
枕営業してるとか悪い噂が絶えなかった。
そんなのは、ただのやっかみに過ぎない。
だってパテオのナンバーワンの座を勝ち取ったのは
ミサキに他ならないのだから。
私は密かにこうも思っていた。
そしていつかミサキの座を奪うと。
ミホが唐突に言った。
「今夜うち遊びに来ない?」
「え?だって終電なくなるよ」
「泊まってけばいいじゃんか、うちは構わないよ」
ちょうど明日は休講だった。しばらく考えていると
ボーイが「ミホ、出番」と言った。
赤毛パーマの背の高いボーイだ。
私のことは杏さんと呼ぶのにミホのことは呼び捨てタメ口だった。
でもミホは機嫌よく、はあいと言ってるが立ち上がった。
もしかすると古い仲だからかもしれない。
ミホの誘いをどうしようか迷っていると
ひょっこりと指名客が店にやってきた。
立ち上がった私はミホと同じくらい上機嫌になっていた。
ミホは店から徒歩15分のところに住んでいた。
裏通りの寂れたアパートだが場所が場所だけに家賃は、うちよりずっと高そうだ。
部屋の中は、これでよく人を気軽に泊められるなあと思うほど散らかっていた。
大半は服とヌイグルミだ。
ジャージに着替えたミホは私にも色違いのジャージを貸してくれた。
ミホは22歳だという。
聞いた時、ちょっと驚いた。
普通、2、3歳年上の人は自分より大人びて見えるものだからだ。
ミホはそういう年上オーラが全くない人だった。
というか、地方の何もないところで
どっちかといえば真面目一筋で生きてきた私にとって
ミホみたいなおバカっぽいタイプは異質であり親しくなった経験がなかった。
そういえば高校時代、クラスの後ろの角っこの席で
一日中ミラーを眺めては化粧直しばかりしていた女子に似ている。
語尾を伸ばして喋ったり、耳をつん裂くような笑い声をあげる彼女たちとは
一生交わることはないだろうと思っていたけど。
彼女の部屋で床にあぐらをかいている彼女を見ていると不思議な気分になる。
向かいで大股で座り大笑いするミホを、私は自然に受け入れていた。
いや、今まで味わったことがないほど居心地が良かった。
ふざけて化粧を落としスッピンで向き合った時
私たちの反応は両極端だった。
「何だあ〜。杏、そんなに変わらんじゃん、すっげえ
ブスとか期待してたのにつまんない〜」
反対に私は真正面にいるどちらかといえば地味な顔をした女の子に
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