【後編・リアルベンチャーの衝撃と今】なぜ経営コンサルタントを目指していた大学生が、全く興味がなかったネット広告ベンチャーで働くことになったのか。
好感触な出会いから19日後。
就職活動を行ったことのある方ならお分かりになると思うだろうが、19日という時間は長い。
この19日間で僕は初内定を獲得し、選考が進む会社、落ちる会社、辞退する会社がでてきた(そして、3月30日の誕生日も過ぎた)。
19日後の4月5日夜、懇談会と称して僕を含めた学生2人は食事会に招待された。明らかに高そうなお店の雰囲気に飲まれつつ、2人の会社の方(1人はイベントで会った方、1人は新しい方、やはりどちらも人として魅力的な方だった)と談笑した。
翌日の6日は1dayインターンを行った。
まず驚いたのが、オフィスだった。今まで受けてきた他のベンチャーは働いている所を見せてくれない、もしくは洗練された緑溢れる格好いいオフィスだった。
しかし、この会社のオフィスは一言で言うと、「未完成」だったのだ。不格好な床、壁、天井。通された応接室なんてパーテーションで区切られた一画だった。BGMが流れているものの、社員の話し声や電話の声は丸聞こえだ。だがその狭いオフィスには所狭しに模造紙やポストイットが張ってあり、熱気に溢れるものだった。
社長や役員と社員の距離も近かった。他の会社では「社長との距離が近いです!」なんてPRしていても社長室があって、社長の姿は見えなかったりする所もあった。だが、この会社は普段から社員の隣で仕事をしているではないか。
「こ、これが本当のベンチャーだ!」とは僕の脳内会議就活担当大臣の発言である。
さてインターンの中身だが、当時は事業内容に関する講義、ケース分析、営業同行という流れだった。講義はともかく、ケース分析と営業同行は実際の業務であり、営業同行も本物のクライアントの所に行くというぶっ飛んだものだった(特にこの内容を数回会っただけの学生にやらせることがね。そして驚くべきことにこのインターンは1dayなのだ)。
案の定営業同行では、普通のインターンではあり得ないことが起きた。事前説明では前々から取引していてお互いに理解のあるクライアントという話だったが、話が進むにつれ頭上に暗雲が立ち込めてきたのだ。勉強不足で全てを理解することはできなかったが、どうやら案件の方針について双方の方向性が異なっているらしい。その場では収まったものの、予定では1時間だった打ち合わせ時間は2時間に伸びていた。打ち合わせが終わった後、僕と営業担当の社員間には奇妙な連帯感さえ生まれていただろう(僕は隣で議事録を書いていただけであるが)。
「これが本当のビジネスというやつか……っ!」というインターンでは初めての感覚を得ることができた。
その後、インターンは無事に終わり、数回の選考を通過した。
就職活動は恋愛に例えられることが多い。良好な第一印象から一夜(1day)を共にして僕は恋する乙女状態だったし、選考では自分を売り込みつつ、相手の好感度を探っていくフェーズにあった。そしてどうやら順調に行けば内定を頂けそうだと感じていた。その反面、頭では会社の安定性、成長性に不安が募るようになっていた(ベンチャーを目指して就職活動を行っていたのに不思議な話である。そもそも感情的には第一志望だったのだ。恐らくどこかの誰かに「大丈夫だよ」と言ってほしかったのだろう)。
2016年4月25日15時、そして迎える最終選考である。
前提の話として、1週間前に2次志望だった会社から内定を頂いたことや、最終選考は意思確認程度だろうと高を括った僕は見事なまでに調子に乗っていた。
最終選考の担当は社長だった。久し振りに会えて嬉しかったが、特になにかを質問されることもなかったため、話を聞き相槌を打つことに終始した。そして、たまに口を開けば不安が口を覗かせるネガティブな発言しかできなかった。しかも時間の都合とやらで、そのまま1時間で切り上げられてしまった。
正直言って、全く手応えがなかったように思う。
当時の僕の状況を整理しておこう。有望だが感情としてはイマイチな第2志望の内定は抑えている。内定を得たこともあり、志望度が低い会社は軒並み辞退済み。この先参加するイベントや説明会もない(5月のスケジュールは数ヶ月ぶりに真っ白だった!)。
そんな中で、臨んだ第一志望の最終選考。面接から帰る電車の中で、僕はまな板の上の鯉の気持ちが理解できた。
異性の気持ちと最終の結果ほどわからないものはないのだろう。
結果として、その最終選考は通過でもないお祈りでもなく、再選考という連絡をもって僕を襲うことになった。
2度目の最終選考なんて半年就職活動をやっていたけれど初めての経験だった。最早理解不能である。だが、チャンスには違いなかった。
スケジュールに余裕ができ自分と向き合う時間もとれたことで、ベンチャーに対する不安というものは解消されており、心も頭もこの会社にフルコミットすることができていた。
いまさら落ちる可能性も考えられなかったので、ありとあらゆる準備をした。前回を反省し、入社への熱意が足りなかったと見るや、大学へ提出する進路決定書を用意。最終選考中に内定承諾書と進路決定書を書くことを目標として万全の体制で臨んだ。
今思うと気が早すぎるし、そもそも会社側が承諾書を用意していなければ達成不可能な目標である。
2度目の最終選考の内容は、期待とは裏腹に至って普通の面接であった。そしてその中で、なんと先程掲げた目標は見事達成することができたのだ!
その後は、社内イベントや全社会議を通してお互いに理解を深めていき、現在はインターン生として週3で働いている。
予想に反して大ボリュームになってしまい泣く泣く削った事として、結局VR新規事業は頓挫した(が、そもそもの事業内容は僕の天職だと思う)ことや、今は洗練された緑溢れる格好いいオフィスなこと(もちろん熱量は失われていない!)、僕の大学以前の背景などが挙げられる。
だけど今まで書いてきたことや、社内には魅力的な方ばかりということ、そして今、僕は働きながら幸せを感じていることだけは間違いない事実なのである。
本Storyでは多くを端折ったが、僕の就職活動中は多くの楽しみと悩みが交錯する中々に特異な期間だった。
恐らく殆どの就活生が多少なりとも苦悩の中、就職活動をするのだろう。
僕の体験談が少しでも就活生の不安を和らげることに繋がれば幸いだ。
インターン生 岩田啓太郎
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