女子サッカーが有名になって正直ビビっている。

著者: 稲庭 うどん

大変申し訳ないが、私はサッカーが嫌いだ。


 と、いうのも、昔サッカーをやっていたからだ。


 当時サッカーは男の子がやるもので、私は人数不足の地元チームに無理やり引っ張りこまれた形だった。

 正直、とても嫌だった。

いくつか前の世代が特にそうだったのだが、そのサッカーチーム上がりのお姉様がたは、地元のレディースに入ってみたり、未成年ながら煙草をふかしてみたり、そのへんの公園で深夜まで騒音を出してみたりする、大変ご自由でいらっしゃる方々だったからだ。


 私は、木登りとブランコとドロケイとドッヂボールは好きだった。読書も好きだった。だからサッカーもそんなに嫌いじゃなかった。サッカーチームに入るまでは。


 その女子チームは、当然ながら女の園だった。そこに体育会系特有のノリが加わると、まあ当然ながらいじめだの何だの、そういうものが起こるわけだ。

例えばシュートを外す子がいる。チームメイトは笑って流す。私がシュートを外す。ささやき声と勝手に付けられたあだ名。

試合の時は丸くなって弁当を食べる。私のところで少し輪が歪む。

そりゃそうだ。

理不尽にやたらめったら泥塗れで走り回らされて、ストレスも溜まるだろう。鈍臭いやつがいたら、そりゃあ適当にいじめてストレスを発散しつつ結束を固めるだろう。


もちろん、私のいた所がそうだっただけで、全ての女子サッカーがそうだったとは思わない。

少なくとも私のいたチームはそうだった。


閉じた世界で、近所のチームとの交流もあったが、はぐれものははぐれもの同士、といった感じだった。


辞めさせてくれればいいのに、大会に出るための人数合わせで、ただそれだけの理由で私はチームをやめられなかった。

 私はスポーツが嫌いになった。

体育会系の人間が嫌いになった。

テレビでサッカーを見るだけで、スポーツドリンクと砂びたしでベタベタになった鞄が頭をよぎる。

最近、女子サッカーは珍しくないらしい。

 良いことだと思う。


例えばいやな思いをして、やめたいと思ったらやめられる。

良いことだ。

サッカーは嫌いだけれど、女子サッカーをメジャーなものにしてくれたなでしこジャパンを尊敬している。

閉じた世界の怖さはとてつもない。

女子サッカーよ、私は大嫌いだけれど、メジャーになってくれ。増えろ、競技人口。

いつかそんなに嫌いじゃなくなれるといいと思っている。


ちなみに、例のいじめの主犯格の子は小学校でいじめられていた。そのストレスを私で発散していたわけだ。とても可哀想だと思う。校区の違う、私と同じ中学校にきたその子は、隣のクラスだった。入学して二ヶ月ほどでその子は学校に来なくなった。

ざまあみろ、と思っていた。


高校に入ってから、その子の小学生時代を知る友達から話を聞いた。

 その子は、苛烈な家庭の事情とクラスからの無視に耐えて、隅っこで本を読んでいる女の子だったそうだ。


私はサッカーが嫌いだけれど、いま、あの子がそんなに嫌いじゃない。許しはしないけれど、知らないものを知るきっかけにはなった。

 彼女の姿を見かけない。何年か前、失踪した噂は聞いた。

私を指差して仲間内でヒソヒソ言う彼女は、笑っていた。サッカーチームでしか笑えなかったのかもしれない。

何かかがあと少し違えば、と思った。

例えばチームのメンバーがもっと多ければ。


マイナーなものがメジャーになることは、良いことだと思う。

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