マクドナルドで役立たずだった僕が、仏像彫刻家として生きて行くまでの話

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まじまじと未完成なお守りを見つめながら、

親父さんはかすれた声で褒めてくれたのだった。

不器用で、人のことをそうそう褒めないと聞いていた

親父さんが褒めてくれた。

僕は照れ臭くて、まだ未完成でダメなところばかり説明した。


この日から一週間後、

僕はこのお守りを仕上げて再び親父さんのところに持って行った。

親父さんは、一週間前の様子から比べてまたさらに弱っていた。

自分で起き上がるのもやっとで、吐き気が強く長く話せなかった。


また時間を見つけて親父さんに会いに行こう。

そう思っている間に、あっけなく親父さんは旅立った。




お葬式の時、

いろんな人から僕が造ったお守りを褒めてくれる声を聞いた。

親父さんは入院中毎日、僕のお守りを手に握り祈ったそうだ。

お見舞いに来た人や、病院のスタッフに

「娘の婿になる人が俺のために造ってくれたんだ」と

自慢していたそうだ。


僕は親父さんの遺影を前に涙が止まらなくなった。

お葬式の時にたくさん飲まされたビールのせいもあるけれど、

僕の理性は全て吹き飛び、声をあげて泣いた。


絶対に一人前になって、大事な娘さんのこと守るからな!


ウエディング姿で未完成なお守りを持って行ったあの日、

親父さんは僕にこう言った。



「娘を頼んだよ。……信じているからな」


まだ仏師として一人前には程遠い僕に

「信じている」と言ってくれたのだ。

溺愛していた娘を、

どんくさい男に預けるのはさぞかし不安だっただろう。


エリートサラリーマンでもないし、

それどころかマクドナルドのハンバーガーすらまともに作れない。

自分一人が食っていくのが精一杯で、

未だに時々ティッシュ配りのアルバイトをしている状況だ。

しかも、

大切な晴れの日に

大事なお守りを造り上げることすらできないような男だ。


それなのに親父さんは「信じている」と言ってくれた。

この言葉は、

「頑張れ」とか「応援している」とか

どんな言葉よりも励みになるものだ。



僕はこの言葉を忘れない。

絶対に一人前になって、多くの人を救うような仏像を造ってみせる。






ゾリッゾリッゾリッ……。

ふぅ。

息を吹きかけるとかつお節のような木屑が飛んでいく。

木の塊から仏様の姿が少しずつ見えてくる。

一刀一刀、祈りを込める。


僕は今日も仏像を彫っている。

もうティッシュ配りのアルバイトはしていない。

親父さんが託してくれた大事な娘と家族になった。

もう一人家族も増え、守るべきものが増えたから大変だ。


僕は今でも、テキパキと次から次へと仕事をこなすのは苦手だ。

きっと今またマクドナルドで働いたって、ビックマックに肉を入れ忘れるだろう。

でも、それでいい。

僕は僕にしかできないことをしているから。


ゾリッゾリッゾリッ……。

ふぅ。

彫っては息を吹きかけて削りかすを吹き飛ばす……。

こんな地味な作業の繰り返し。

これが僕の歩む道だ。


この地道な一歩の繰り返しが、ただの木の塊から仏様の姿を浮かび上がらせる。

美しすぎず、かっこよすぎない、僕が造る、あたたかい仏像だ。


——お前はこのままでいい。ありのままでいいのだ。


いつか、

僕の造った仏像もこんな風に語りかけるかもしれない。

学校やアルバイトで失敗して落ち込んでいる、

昔の僕のような君にね。





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最後までお読みいただきありがとうございました。

誰かの力になれればと思い、僕の人生を振り返り、妻とともに綴りました。

僕は自分のことを、一般社会では何の役にも立たないどんくさい人間だと思っていましたが、己の道を見つけることができました。
もしも、同じように苦しんでいる人の力になれたら幸いです。

僕は2017年の初めから、奈良県の山あいにある東吉野村に新しい工房を構えました。

そこで弟子を育て、僕たちにしか造れないようなユニークな仏像を生み出します。

僕のような何をやってもどんくさいやつが弟子を育てていくなんて正直自信なんてありません。

でも、
こんな僕でもここまで出来たから、
いろんな個性のある仲間が集まれば
もっともっと面白いことになると確信しています。

僕は師匠と呼ばれるにはまだまだ未熟な人間かもしれません。
でも弟子をとったことで
自分がもっと育てば結果的に全体が育ちます。
ものづくり業界自体が盛り上がってくれたらと思います。

僕の珍道中人生はまだまだ始まったばかり。

2017年1月31日 安本 篤人

▼妻のストーリーはこちらです。よろしければご一緒にどうぞ。

【末期がんの父に贈った病院ウエディング】めげない心が起こした奇跡


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