マクドナルドで役立たずだった僕が、仏像彫刻家として生きて行くまでの話

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仏師になると決めて、何度も何度も立ち上がってきたのに。


どうしてうまくいかないんだ。


僕は、クビ同然に師匠の元を去った。

重い足取りで、アパートの斜め向かいのコンビニにいつも通り入った。


「いらっしゃいませ」


店員はいつも通り決められたセリフを言った。

お酒コーナーでは、カップルが仲良さげに飲み物を選んでいる。



結婚もうまくいかなくて、
自分で決めた道も何度も挫折して、
僕の人生は一体なんなんだ……。



明るいコンビニの照明の下で、泣き出しそうになった。

でも、僕の中にわずかに残されたプライドがそれを止めてくれた。


涙をぐっと押し込み、

お酒コーナーのカップルの横から冷蔵庫の扉を開けた。

いつもは発泡酒だけど、今日はビール。

しかも、プレミアムなやつだ!


次に僕は弁当コーナーに行った。

一番ええもん買ったろ!

僕は、何ちゃらミックス弁当と書かれた

一番値段が高い弁当を手に取り、レジへと進んだ。


アパートへ帰り、すぐにビールと幕内弁当を口に放り込んだ。

今の僕ができる、最高の贅沢だ。

涙でぐちゃぐちゃになった。

味はよく分からない。

でも、確かに美味かったのだけは覚えている。


食べ終わると、次から次へと涙が溢れ出てきた。


「僕は……、幸せになりたい!」


涙でぐしゃぐしゃになりながら、僕は腹の底から思った。


どん底からの挑戦





東京に来ていた僕は、嬉し涙と悔し涙を堪えられず泣き続けていた。


ここから僕の人生は絶対に幸せになる!
してみせる!


強い覚悟を持ち、涙を流し続けていた。


京都の仏像彫刻工房をクビ同然に辞めた僕は、

人生をなんとか変えようと東京にきた。

読んだことのある本の著者の講演会に行くためだ。


ありがたい話を聞いた直後はやる気がみなぎった。

けれどもその熱はすぐに冷めてしまう。

偉い人の話を聞くだけで人生が変わるほど、

甘くないことも知った。


そんな時、ある人と出会った。

独立してフリーのライターをしていると

楽しそうに笑って話す女性だった。

だけど、彼女も今の僕みたいに落ち込んでいた時期があったと言う。

それを乗り越え、今、こうして目の前で笑っているのだ。


同年代でこんなにすごいの信じられない!

僕も、独立して仏像彫刻ができるのだろうか。
もし、できるのであればやってみたい!


わずかな希望を抱え、彼女に相談した。

彼女は僕に、ある教育を教えてくれた。


ここで僕は生まれ変わったのだ。


人生という大海原で、進み方を知らない僕は、

何度もなんども波に飲まれて来た。

死にかけたこともあった。

海底に沈んだまま人生を終えてしまうのではないかとさえ思っていた。


マクドナルドでハンバーガーすらまともに作れない。

弟子入り先では、兄弟子にいじめられてばかり。

結婚しても、うまくいかない。

仏師としてやり直そうと思い、

もう一度弟子入りした先でも出て行けと怒鳴られ、逃げてしまった……。


今まで僕は自分のことを、どんくさいどうしようもない奴だと思っていた。


でも、僕は僕なんだと理解した。


スピーディにハンバーガーは作れないけれど、

コツコツと仏像を彫ることができる。

言われたことを型通りにやるのは苦手だけれど、

真っ白なキャンバスに新しいことを描くことが得意だ。

何度も挫折しかけたけれど、

這い上がる底力を持っている。


今まで欠点だと思っていたことが、自分の最高の武器なのだと気がついた。


僕は、僕なんだ!


——お前はこのままでいい。ありのままでいいのだ。

いつか見た、東大寺の仏像「持国天」の声が聞こえた。


ここから僕の人生は絶対に幸せになる!
してみせる!


強い覚悟を持った僕は涙を流し、再び自分の人生を切り開いていくことを決めた。


「独立して仏師として生きていくぞ」


鼻水をすすりながら、僕は腹をくくった。




仏師として独立すると決めたのはいいが、

これからどうやって行ったらいいのか全く分からなかった。


有名な先生の元で働いているわけでもなく、

家柄が仏師というわけではない。

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