おじいちゃんとカッパ
ボクは小学校1年生の終わりまで、鹿児島の田舎でおじいちゃんとおばあちゃんに育てられ暮らしていました。のんびりした平和な、楽しかった時代の話です。
あの頃の原風景は、まだ川は綺麗で。。護岸工事などという「川をドブにする加工」もされておらず高層ビルもなく空が高い。ホタルが飛び交い、川べりの水草に色鮮やかな「糸トンボ」が止まっているのを見て、その造形と配色の素晴らしさ、そして命の輝きにワクワクドキドキしていました。

水の中には野生の、本物の魚が動いていて、鱗に陽の光が当たってキラッと光り、その魚を釣りにおじいちゃんとよく出かけました。おじいちゃんが教えてくれた魚釣りがボクは大好きになりました。
釣りにいけばたいてい大漁で、バケツいっぱいに入った川魚の上に川辺の草をちぎってかぶせて日陰をつくり魚が弱らないように家に持ち帰っていました。大きなおじいちゃんの家。旧家で、戦争のとき爆弾が当たっても折れなかった大黒柱が自慢の家でした。
家に帰るとおばあちゃんが笑顔で出てきて「洋ちゃんは釣りがうまいね」と褒めてくれ、その川魚を使った料理が出てきます。焼いたり、唐揚げやてんぷらにしたり煮込んだり。おばあちゃんは女学校で家庭科の先生をしていたので料理がうまいのです。
お風呂から出てくるといい匂いがして、おじいちゃんは晩酌をしていて近所の人も上がりこんで一杯やってる。ボクはおばあちゃんの料理を食べながら、この魚を釣り上げるのにどんなに苦労したか自慢してる。なにもかもが幸せでした。
夜寝るときになると、おじいちゃんがお話をしてくれます。
最初は普通の桃太郎の話。。でも、最後は必ず大スペクタクルドラマになる。桃太郎は外国に行ったり、宇宙に行ったりもします。毎晩、違う展開の有名な昔話が始まるので飽きることがありません。
そして突然、おじいちゃんは天井の節穴を指差して。
「ほら、見てごらん。あの節穴、光ってるだろう。。カッパがのぞいてるんだ」
えっ! とボクは驚きます。
「気づいてなかったのか? 夕方、おまえが釣りしてるのを草むらからカッパが見とったぞ。おじいちゃんは気付かんようにしとったから、あいつ家までついてきたんだよ」
ボクは怖くなって、おじいちゃんにしがみつきます。
「大丈夫だ。カッパにもいいヤツと悪いのがおって。あのカッパは悪い方じゃない。いい方のカッパだよ。悪いやつは川の向こうの沼にいて。。」
もう毎晩、おじいちゃんの話から耳が離せません。
おじいちゃんは最高のストーリーテラーであり、エンターテイナーだったのです。職業は1級建築士で、田舎の有名な公共施設の設計をいっぱいやってましたけど。長歌が好きで、よく吟じてました。その後、選挙に出て政治家になるんですけどね。
とにかくボクはおじいちゃんの話が刺激的すぎて次の日も思い出すわけですよ。そういえば節穴が光ってたらカッパが覗いてる、って言ってたなぁ。今はどうなんだろ? カッパ、あの天井裏にいるのかな。
そんなことを考えていると、どんどん想像が広がって膨らんでいるわけですよ。もう、誰かが何か言っても聞こえやしない。だって、もっと大事な、すごい冒険が始まってるんだから。
「もう、この子は。またぼうーっとして! グズなんだから。しっかりしなさい」
おふくろなんかはイライラするわけですよ。
はたから見たら、いつもぼーっとしてる。でも、ボクから言わせれば、その時は出かけてる。冒険の旅に出て留守なわけです。
まぁ確かにボクは、グズでのろまな所もあるんですが、ぼーっと見える時には何かを考えてる。想像を働かせているんです。そういうこと、わかってくれる大人って少なかったなぁ。おじいちゃんとおばあちゃんが最高の理解者でした。
素早く、いろんなことをこなす。処理する能力ってすごいと思います。そういう能力は確かにボクは劣ってると思う。でも、そんな能力の人ばかりいても世の中つまらない。
いろんな人が、いろんな生き方をしてるから面白いんだと思いますけどね。
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