口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ② 初日編
私は川の堤防で自分自身で導き出した答えを実行しようとしていた。
風俗誌を買って、実家に隠し持っていた。
ヘルスに行く為ではない。
風俗誌の後半にホストの店が載っているのだ。
ホストの写真も掲載されており、どうせ働くなら自分がかっこいいなと思う人たちが働いている店を選びたかった。
ホモではない。
かっこいい人たちの何がかっこいいのかを知りたいと思っていたのだ。
いまでこそ水商売全般に対する認知度があがってきているが、その頃のホストは、あまり情報がなかった。
とてもダーティーな雰囲気が漂っていた。
1月中旬、働きたい店を迷いに迷ったあげく、決定した。
名古屋には女子大と言われる地域がある。
キャバクラや高級クラブが集まっていて、名古屋で一番飲み屋が集まる場所を「錦」という。
そして女子大という場所は「錦」からはタクシーで5分から10分ぐらいの位置にある。
かなり前に(戦前?)女子大学があったからこう呼ばれているという話をタクシーの運ちゃんに聞いた気がする。
正式名称は名古屋市中区栄4丁目。
ホストクラブや韓国クラブ、韓国エステ、フィリピンパブ、その他ここには書けない怪しい店が所狭しと密集している地域であった。

そういった種類の店舗からもわかる様に、昼間はシャッターが閉まっている店舗ばかりであまり人気はない。
だが夜になると一転、多国籍な人々やそういった店で働く従業員、ホストと思われる人間や明らかにヤ○ザっぽい方たちなどでダーティな雰囲気を醸し出している街だった。
(今現在は風営法が厳しくなったせいで、だいぶ昔の面影は薄らいだらしい。)
そして、私が風俗誌で選んだ店は女子大にあった。
当時私は名古屋に住んでいたわけではなかったので女子大がどういう場所かは、あまり詳しくはわからなかった。
お昼すぎ頃に店へ、レッツテレフォン!!
プルル・・・プルル・・・
誰もでない・・・。
(やはり夜か・・・)
親が寝静まった、0時頃に再度レッツテレフォン!!
プルル・・・プルル・・・
店「はい!お電話ありがとうございます!!」
私「あっ!!あのう・・・・そちらはバイト募集されてますか?」
店「はい。募集していますよ。」
私「そちらで働きたいのですけど。」
店「わかりました。それでは面接の日にちは・・・明日の0時に店に来れますか?」
私「大丈夫です。」
店「お待ちしてます。それでは明日。」
電話が1月の深夜にも関わらず、汗で湿っていた。
しかし
(やっぱりやめとこうかな?)
という迷いはなかった・・・。
次の日の夜、少し大きめのカバンに兄から勝手に借用したスーツ、Yシャツ、革靴、ネクタイを押し込み、親が寝静まった頃に家を抜け出し、電車に乗っていた。
私の住んでいる町は、名古屋市のベットタウンという位置づけの為、深夜の23時に名古屋方面へ向かう電車にはほとんどお客さんは乗車していなかった。
我が町から女子大の最寄り駅である栄までは、電車で30分程度の距離なので、自分の気持ちが落ち着く間もなく、栄に到着していた。
栄とはいえ、自分達が車でブラブラしていた位置とはだいぶ違っていた。
その時代は、スマホがまだないので風俗誌に掲載されていた店舗地図の切り抜きを、たまにポケットから出して場所を確認しては、店の方へ歩いていった。
まったく行った事がないエリアではなかったが、深夜の0時頃になると様子がガラッと違っていた。
深夜に、その女子大のエリアに足をのばすのは初めてであった。
(俺、大丈夫か?)
一匹の仔羊(SHEEP)がネオンに迷い込んでいた。
今までは車の窓ガラス越しにしか見ていなかったネオン街を徒歩で歩いていた。
窓ガラスはない。
もちろんボーイズもいない。
とても不安である。
殻を割られたヤドカリの様な気持ちだ。
しかし、自分の気持ちに精一杯の虚勢をはり
(関係ねぇ!自分自身で自分の人生面白くするんだろ!?)
と一歩一歩足を進めて店へと距離を近づけて行った。

そして・・・・奮い立たせたのは良かったが、結局道に迷い、5分程度遅刻して店の下に到着した。
私が向かった店の名前は・・・・
「B」。
ドアを開けるのにも緊張で5分程度かかった。合計10分の遅刻である。
ものすごい緊張だが、ここまできて引き返す選択肢は無い。
ドアを引いた!
「すいません!遅くなりました!本日面接を受けさせていただく井出です!」
「待ってたよ~。こっちに来なよ。」
店はまだ開店前で中途半端に暗く、店の広さは30坪ぐらいの広さだった。
自分の中で想像していたホストクラブよりは、だいぶ狭かった。
ボックス席でおしぼりを巻いている人が二人いた。
一人は髪をセンターで分け、その分けた前髪がとてつもなく立っており、昆虫の触覚みたいになっていた。
体型は小太り・・・・いや、太っていた。
もう一人は髪を七・三で分けており、お世辞に言ってもちょっとやんちゃなサラリーマンといった感じで、薄い顔立ちで体型はひょろっとしており、猫背が目立っていた。
履歴書を渡したが、ほとんど見ている気配はなく、履歴書に関しての質問もないまま、
「君が井出君?いやいやいや、いけそうじゃん。なんでホストやろうと思ったの?」
「興味がありました。」
あなたの親御さんの人生を雑誌にしませんか?

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