口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ⑤ 崖っぷち編
Sさんがいなくなってから数日後、ついにフル出勤で迎えた給料日がやってきた。
営業終了後にみんなが集まり売上の発表を行い、その後に給料を渡すという流れであった。
ホストの給料日というとナンバー1から発表されそれから順に2、3という風なのを想像されると思う。
大筋はBも一緒だったのだが、何か空気が違っていた。
なんというか・・・みんながあきらめ顔なのだ。
モチベーションが低いというのか・・・。
(んっ?給料日なのになぜ?給料日が嬉しくない国なんてあるのか・・・?)
売上発表の後に奥のビップ席に一人ずつ呼ばれ、給料袋を次々と渡されるのだが・・・。
「ははっまた紙切れだ。」
「そうだな。」
意味が分からない会話のやり取りがされている。
K野専務「次、K!」
私の源氏名が呼ばれ、ビップルームに向かった。
K野専務「はい、お疲れさん。」
私「ありがとうございます!」
K専務「とりあえず、保証期間中にお客さんが掴めるように早く頑張れよ!もし保証期間中に売上が上がっちゃったら売上制にしてやるからな!」
私「はい!ありがとうございます!」
という様なやりとりをして、いそいそとボックスに戻り封筒を開く。
(んっ?こっ・・・・、こっ・・・、こっ・・・・、これは一体!!!!!?)
1、2、3、4・・・・
ゆっ!諭吉さんが4人しかいない!?
後は小銭?
諭吉さん達が寒さに震えている!!!
4人で身を寄せ合って・・・。
その中には明細も入っていた。
(どれどれ・・・?
基本給7万ちょい・・・・?
少ねぇ!!!!
25日オーバーで働いてなんだこの給料?ここは新興国?
いや、日本のはず・・・)
さらに給料明細には・・・・
7万からさらに税金・積立旅行費などが引かれてあった。
(税金・・・・7000円ちょい!?
積立旅行費・・・・2万!?)
目を疑った。基本給がただでさえ少ないのに、税金が意味不明に10%、積立旅行費が2万円も引かれていた!
私「あのう・・K野専務、これはどういう事なんですか?」
K野専務「あ~これね。旅行積立金は12月になったらみんなで慰安旅行で海外行くからその為の積立金だよ。楽しいぞ~。」
私「そうなんですか・・・。」
K野専務の明るいトークに流され、その時は日給いくらで計算しているのかなどを聞く事ができずに終わってしまった。
何もかもが初めての世界。
(ホストってお客さんを呼べなかったらとてもじゃないけどやっていけないんだな)
と店側にとって都合のいい方に解釈をしてしまっていた。
…我ながら恐ろしすぎる適応能力!!
…イッツ・ディープブラック!!!
携帯代金を払ったら給料はほとんど残らなかった。
他の店の事情はわからない。
だが働いている内に周りからの情報や名古屋のホスト業界の事などに多少詳しくなってきた時に分かってきた事があった。
まず私が勤務していたBは大きいグループの傘下の一つであった。
大元はヘルス・キャバクラを何店舗も経営しているグループであり、ホストもB以外にも、もう一店舗あった。
まだ、法律が厳しくなる前の話なので大丈夫だとは思うが、多少オブラートに包んで書くといわゆる
「怖い人達にお支払いになるお金」
の金額がその頃の名古屋の業界ではトップだと聞いた。
その話は、あくまでも伝聞であると
強調しておきたい。
つまり、一番チカラがあるグループだったのだ。
事実、その系列を辞めて他の系列の風俗、ホストで働く事は完全にアウトだった。
(他店でもその系列で働いていた事を知ったら絶対に雇わなかった。引き抜きも無かった。)
入店してしまった以上、名古屋でホストをやるのであれば、もうここしか出来ない。
そういう理由で、給料体系にしてもかなり強気で無茶苦茶な設定だったのかもしれない。
給料袋が紙切れだけだったホスト達は、お客さんのツケが多く、
支払い給料をツケが上回ってしまっていた…
いい加減な給料体系、かなり率の悪い歩合、だとしてもそこでやるしかない諦め……
モチベーションの低さはそこら辺からきていたのであろう。
その頃の名古屋のお客さん事情や、現実的な売上の話は追い追い書こうと思う…
社長のR華さんも、結局は雇われ社長という事であり、K野専務も本社から任命されてBを管理しているという具合だったのだ。
そのグループ自体も正直な所あまり評判が良くなかった。
グループの評判も良くない、さらにB自体の評判も良くないという有様であった。
キャッチやナンパをした女の子で多少ホストの事を知っている女の子にあたると
女の子「Bって店の中で無理やりやられたりするんでしょ?」
女の子「Bってぼったくりなんでしょ?」
女の子「Bって無理やりヘルスで働けとか言われるんでしょ?」
女の子「あそこのグループって、入ったら辞められないんでしょ?」
・・・・すこぶる評判が悪かった!!
「一番治安が悪い時のロサンゼルスと勘違いしていないかい?お嬢ちゃん?」
著者の健二 井出さんに人生相談を申込む
著者の健二 井出さんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます