第4話 最初の月末「社長、1,000万円足りません」

4 / 4 ページ

前話: 第3話 荒れる海で眼鏡を回せ。
次話: 第5話 改革開始

まさに、青天の霹靂ともいうべき事件が起きた。

「契約違反です。3,500万はすぐに支払って頂きます。」

「え・・?すぐに残金を全額??」

ぬかりやビルの会議室は、ちゃんとした個室ではなく、アスクルで買ってきた青色のパーテーションと、安い偽物の観葉植物で区切っただけなので、少し大きな声を出すと、近くのデスクにいる社員たちには会話の内容が筒抜けになってしまう。

この日、経営陣交代の一報を聞きつけて来社していた、業界大手のリース会社「Sリース」の担当A氏は、奥野さんから手渡された最新の決算書をパラパラとめくっていたが、ふと手を止めると、刑事のような鋭い眼光で、こう問いかけてきた。

「第三者割当増資をしたのですね。それでリッキーさんの持株比率は?」

「18.5%になりましたけど、何か?」

「うちのリースの契約には"RBSの持株比率を60%以上とする”という特約が付いています。これに抵触するので、この契約は解除となります。1週間以内に即刻、残金の3,500万円をお支払いください。」

「えっ・・?!! ご相談も何もさせてもらえる余地はないのですか?」

「無理ですね。契約ですから。次回のお支払い日まで残高の3,500万円一括での支払いを必ずお願いします。」

「………。支払いを遅らせた場合はどうなるんですか?」

「その場合は契約書に基づいて差し押さえを行います。」

せめて「残念ですけど…」とか、少しは事情を慮る気持ちの欠片でも見えれて入れば、また違った印象になるのであろうが、全く事務的で冷酷なA氏の態度に奥野さんはブチ切れていた。

人間は、突然予想外の事態に直面すると、一瞬、思考が停止して言葉すらも出ずにただ身震いし声が出なくなることがある。

きっとこの時の奥野さんははそんな感じだったんだと思う。奥野さんは、無言で、出口の扉を指し示しすと「わかりました!お支払いしますよ。とにかく払えばいいんでしょう!」と吐き捨てるように言いながら、追い払うようにA氏を外へと送り出した。

僕はオンデーズを買収するにあたって、事前に実の父親から紹介された某コンサルタント会社へ契約書類のデューデリジェンスを依頼していた。奥野さんがいた投資会社とはまた別の会社だ。そしてその費用は250万円。

この会社の代表T氏は民事再生案件などの企業再生の世界では著名な人物なので、その調査結果を信頼しきっていたのだが、後から判明したことだが、このコンサルタントT氏はオンデーズに関して、ろくすっぽまともな調査を行っていなかった。買収後に経理や総務の社員に聞いてみると、なんと一度も会社にすら来ていなかったというのだ。

帳簿や契約書類の確認もヒアリングもなく、とてもデューデリジェンスとは言えない代物に、口先だけでまんまと250万円も騙し取られてしまっていた。その結果が「契約書の内容を見落として突然3500万を請求される」このザマだ。我ながら、なんとも情けない。

とは言え、さすがに買収前にこの様な特約の存在を見落としていた自分たちが悪いにせよ、RBSサイドにも、少しくらいは文句を言いたいと、奥野さんは強い口調でRBSに電話を入れ、クレームを申し立てた

これに対し、RBSは3,000万円を”1か月間"という条件で、短期融資をすぐに行ってくれることになったのだが、所詮は焼け石に水であった。1円すら惜しいこの時期に虎の子の3、500万円を突然、リースの返済に失うことによって、オンデーズの逼迫した資金繰りは更に困難を極めることになった。

「リースって、銀行の借入よりも融通が利かなくて怖いですね。期限の利益を失ったら問答無用で精算しなければならない。銀行は、やり方を間違えさえしなければ、いきなり強引な回収に動くことはほとんどありませんけど…」

そう話す奥野さんは、いずれ行わなければいけなくなるかもしれない、”重大な次の交渉”の進め方を思案している様でもあった。

6月も中旬になると、予想通り、最新の決算書(もちろん赤字)を審査して、オンデーズの格付けを落とし、新規融資の申し込みをハッキリと拒否する銀行が次々と現れ出し、最終的には全ての取引銀行が、担保無しでは新規の融資は行わないという方針を伝えてきた。

当時は毎月の銀行の約定返済が最低8,000万円、多い月は1億2,000万円もあった。しかもこの時のオンデーズは、営業利益の段階で既に毎月2,000万円近い赤字が垂れ流され続けている状態。このままでは”収益からの返済”は到底ムリ。銀行の返済を銀行の融資に依存する”金繰り弁済”をしてもまだ運転資金が足りないような状態に陥っていしまっていたのだ。

タイムリミットはあとわずか。

僕はオンデーズを立て直す為に思いつく限り全ての方法や可能性を指示し、即座に行動に移すように本社の管理職たちに告げると、長尾の運転する車に乗り込んだ。

著者の田中 修治さんに人生相談を申込む

続きのストーリーはこちら!

第5話 改革開始

著者の田中 修治さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。