最愛のビッチな妻が死んだ 第10章
「ライバルか…ウワサの」
続いて、焼くとパンダの顔がプリントされるトースターの画像が送られてくる。
「かわいいね」
「次嫁に行くまで使わないどこうと思ってた」
「嫁入り道具か」
「そう」
「照れるな」「うれしいな」
僕は喜びの感情に慣れてなく、忙しくヘタな表現することしかできなかった。あげはからいっぱい、かわいい調理道具が送られてくる。
「かわいい物好きでしょ。温存しててよかった。製菓器具は後回しにして、いろいろ出したよ。決断力、いつもはあるんだけど」
「迷い中?」
「あげの一生モノを出すタイミングなのか、自分に問ってたから。最初の数日だけだけど」
「ありがと。いっぱい一緒に食べて、太っていこう。一緒に」「幸せ太り」
「太りたくないけど、一緒に食べるよ。あと、何かあっても帰るのは実家だし、って思ってた」
「それが少し変わったってことかな」
「共輔とはずっと一緒にいるでしょ。2回目の結婚でも出していないという」
「……泣きそうだ」
「会社で泣かないで」
「涙流したら、PCであげとLINEしてたり、テープ起こしのフリして、音楽聴いてるのがバレるかな」
「むしろ、よく今までバレなかったね」
「イヤホン付けてるから」
「編集長! この人サボってます!」
「……資料です」
僕たちは一緒にいない時は仕事中、会議中でも連絡を取り合っていた。
「ムキムキになるかな~」
「それ以上はやめてーー」
「いま、どこがムキムキなのw」
「腹とか。共輔は今がちょうどいいから!」
僕は当時も今もランニングや身体を動かすのが好きだ。
痩せ体型を維持している方が好きな服を着れるし、小学校に上がるまで太っていてコンプレックスだったから。
小学校の保健室で「止めよう!危険なダイエット」みたいなポスターで「吐くダイエット」を知ってしまい、それ以降、食べ過ぎると吐く癖が付いてしまった。
「痩せてるだけだよ。腹筋はランニングしてるだけ。あげも(今がちょうどいい)」
「ヴィヴィアンすらおっきくなっちゃうよ! あげもなんだ。続きを言えるもんなら言ってみろ」
「あげが痩せたいのなら、がんばってハッパかけるけど…」
「痩せたいよ。でも50kgでいい」
「あげは太っても痩せてもかわいいからな~」
「出逢いがデブだからね。この人デブでもいいんだっていう甘えが」
「ムニムニできるし_…」
あげはから怒りのスタンプがきた後、連絡が途絶えた。2時間後、LINEがきた。
「寝てもてた」
「僕はまだ終わんない…」
「そかそかーー。がんばって! 帰れないとかも、あるよね、エディターは」
「ごめんよ」
「ううん、あげのペースで仕事したし、久々にゆっくりバラエティーなんぞ観て、嫁入り道具を引っ張り出し、有意義だったよ」
「また明日、ゆっくりね」
「早く会いたいな」
「ゆっくり荷物運んで、来月とか再来月とかまでに」
「うん」
「安心して。帰ったらイヤでもいるよ」
「ありがと」
「共輔を超えたフレキシブルだから、御飯を作り、起きて待ってたり我慢できずに先に食べたりして待っているよ。太一が、ウチには時間が早いも遅いもないから、いつでも気にせずと今日じゃなくてもね」
「いま会社の友人に彼女、どんな人って聞かれてる」
「えーと。naverにまとめて貰わないと言い切れないくらいの彼女」
「もちろん、信じられる」
僕は友人に破滅型、闇や負のオーラがスゴいとい言われ続けてきた。そのやり取り画像をあげはに送った。
「破滅型! そういうの卒業した気でいてたっ!」
「破滅型って、僕が、だよ」
「あげはは捕まるか殺されるか死ぬかのどれかだって、言われ続け。破滅型のカップルて書いてあるけど。まぁ破滅しなきゃいいのか」
「破滅はしないよ。2人なら破滅って見られても構わないけど」
「思わず破滅を辞書で引いた」
「シド&ナンシーやカートとコートニーの話してた後だったからな」
「嗚呼、現生のナンシー・スパンゲンだからね。元」
「僕がシドじゃないからな~」
「でも、死んだら隣に埋まってね」
コイツラ幸せいっぱいだな、破滅でも壊滅でも一緒に連れてってほしかった。いま、昔のやり取りを見て、書き殴っている僕の正直な感想だ。
「早く、周りにあげを紹介したり、自慢したい」
「死なないけど! 長生きするって決めたし」
「一緒に死ねるのが理想」
「あげは絶対先に死なれたくない。先に死なれたところですぐに追っちゃうし。でも、とりあえず死なないから」
「僕はけっこう、しぶといから大丈夫」
「まだ、見てないしてないやってないことが多過ぎるし。満足してからで」
「死ぬには早すぎる」
「あげの病気、双極性障害って30歳まで生きるのが0.02%って言われてて、その内の70%を超えたから、大丈夫。あげもしぶとい」
「そういうピンチの時は一緒に死ぬことより、一緒に切り抜けるようにがんばるさ」
「いや今、まったく死ぬ気がしない。あげに死期はないのではないか? とすら」
「ホントに全然想像つかないな」
「死ぬまでにしたい100のこと、ならぬ、死ぬまでにしたい100000000000000000000のこと考えて余暇を過ごすわ」
「そうしよ」
「一緒に居ない間に考えて、一緒にいる時実行に移すんだよ」
「あげとしたいことは尽きないしね」
「……バンジーとかね」
僕はダッシュで逃げるスタンプを送った。
約束の10時を過ぎても僕はまだ仕事が終わらず会社にいて、あげはは実家で嫁入り道具をまとめていた。
「製菓器具だけで9箱あるよ」
「車出す?」
「キッチンの棚とかどうにかなったらちょっとずつ運ぶ。甘い物、好き? な感じしないけど」
「甘味、大好きだよ」
「そか、よかったーー」
「え、この甘みの写真手作りなん?」
「そうだよ」
「スゴい! 売り物みたい。そしておいしそう」
「誕生日とクリスマスとバレンタインが、がぜん楽しみになったでしょ」
「うん。本当に、毎日が楽しみだよ」
昔、あげはが住んでいたという家の写真が送られてくる。
「かっけえ」
「横浜の家のキッチン。これを最低水準に目標にする」
それは赤とピンクと白でまとめられたキレイな台所だった。
「キレイなピンクだね」
「使いにくい物になれれば、使いやすい物で効率が上がるし。ギターも、キッチンも、なんでも」
「名言な気がするな。人間も仕事もね」
「何にでも言えることだね」
「終電逃しそうだ」
「そんな時は、迎えに行くよ」
「まだそっちいけるのかな」
「日暮里までならあと30分くらい」
「向かう」
「終わったの? お疲れ様ーー」
「まだ…あとは持ってく」
僕は会いたい気持ちが強過ぎて、ノートパソコンを抱えて日暮里の実家へ向かった。痩せちゃうからと近くのファミレスでご飯と甘味を食した後、この日やっとニャンコに紹介された。
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