最愛のビッチな妻が死んだ 第16章 8月10日まで

3 / 4 ページ

前話: 最愛のビッチな妻が死んだ 第15章
次話: 最愛のビッチな妻が死んだ 第17章 太一さんへ


準備を始める。


通販サイトでバラバラに購入して集めたトラベルミン30箱、海外から取り寄せたカフェイン200ミリの錠剤12個。100錠入りだから、このトラベルミンとカフェイン、2つだけでも致死量は軽く超える。


箱はバレないようにすでに廃棄済。今日は当日メンドくさくないように、時間取られないようにシートや瓶からクスリを出して、パケにまとめておく。


やっぱり、この作業意外と時間がかかる。先にやっておいてよかった。


プチプチとシートからクスリをパケに落とす。この作業のひとつひとつが死へと向かってるんだなと、手先が震える。


時に力強く、時に震えながら、2時間ぐらい作業。


カフェイン1200錠、トラベルミン180錠、レボトミン500〜600錠、トリプタノール40錠、サインバルタ275錠、レンドルミン50錠、ドグマチール90錠、リフレックス70錠、ベゲタミン1錠、ハルシオン66錠、デパス108錠。


太一さん帰ってきた。怪しまれないように、一回ゴミ捨ててこよう。


残りのクスリのゴミは牛乳パックの中に入れて捨てた。あげはが好きだったというか、本当の好き嫌いは関係なく、使わないと眠れなかったため、愛用していたデパスとハルシオン、僕の肩に化学式のスミが入ってるこの2つは、あげはの好きな66と煩悩の数108錠w


念を入れ、明日リスパダール450錠足しとこ。


体重53キロ、クスリ約1キロ。これが僕の命の重さだ。


命の値段? 知るわけがない。


クスリ吐いちゃわないように念のため、プリンペランとガスター10も6錠づつ追加しとこう。プラス、飲み始める前に両方6錠づつ飲んどこ。


吐き癖あるから心配だ。もし、吐いてしまったら吐瀉物飲もう。絶対に失敗はしない。首吊り要素も入れておこうかな。


あとは前日にすり潰そう。ネットで注文したピルクラッシャー間に合うかな。赤いヤツ。届かなかったら乳鉢でシコシコ砕くかね。


親に家賃滞納がバレて言われた「のうのうと生きやがって」。のうのうと、だと? だったら、よかったのにね。


クーラーが壊れた部屋でヨガやってたら、望まれないホットヨガとなり、死にかける。汗だくだ。


10日のための金を借りるため、プロミスとアイフルにネットと電話で契約。今日は前の職場に人が少ない土曜日だ。


ちょうど計ったように職場には1人しかおらず、「疑ぐり深い取材者うんぬんで、電話かかってきたら、キタハラは働いてるとお願いします」


話はカンタンに通った。金貸しは企業名を名乗らず、個人名で電話かけるのを悪用利用した審査の通し方。楽勝だ。先に電話がきたプロミスと契約。オンラインで口座に金あとは10日を待つばかりだ。金曜日でも月曜日でもできない、この作業を終えられたのは助かった。何度目かの綱渡り、成功し続けて今日生きているが、10日まで絶対うまく勝ち逃げしてやる。


6日


夢を見た。あげはだけがいない世界だった。


トムさんにあげたいモノや見せたかったモノも貸せた。心残りがなくなった。


僕は明確な殺意を持って僕を殺す。


「きみは引力を信じるかい?」つてジョジョのセリフを思い出す。運命、因果、業や赤い糸、色々な例え方があるけど、あげは、きみは引力を信じるかい? 引力を感じるかい?


僕は感じたから、信じてるよ。


あと4日。明日は仕事とスミで使って、2日間ですり潰す。最後の日はスミと、残ったすべてをあげはに。使い切って、あげはのそばに行こう。


7日


あと3日、今日は夕方からだと思ってたスミが昼間からに。ラッキーだ。今日で右腕終わるといいな。


10日は心置きなく背中に集中してほしい。本当は左腕から左胸にピンクの龍も入れたかったけど、時間がない。


背中も2ショットのスジ彫りだけでも完成するといいな。


「死に急いでますね」


とスミを彫る彫師のスズさんに言われてドキっとした。


その発言は描き途中の死神のことを指していたのだが、内心は文字通り死に急いでいる僕はバレてホッとしたような、見透かされたうれしさで少し笑った。


右腕をスカルで埋め終わった。


リボンやバラ、棺桶や手紙、腕1本あげはへのメッセージで埋め尽くしてある。


2人で相談して、下絵なしで僕の腕を埋め尽くす。何度も「コレ、モテないですよ〜」とか「コレ見て寄ってくる女、ロクなヤツじゃないですよ」と言い合って彫ってもらった。


「あげはと2人で観に行った映画が『狂い咲きサンダーロード』だから、『狂』って入れてください」


だって僕は狂っているんだから。


「一眼見てキチガイだって分かるように、この人、イカレてるって分かるように、気持ち悪く、埋め尽くしてください」


「あげはの入れたがっていた『Bipolar disorder』(双極性障害)と彫ってください」


僕はあげはの旦那だから。


「flashback」「dejavu」などの単語も彫ってくれた。


本当はこの右腕を「野望の王国」みたく、オノで叩き斬って、あげはに捧げたい。


色も入れてほしかったけど、スズさん忙しそうだし、台風の影響で雨振りそうから次に回す。スズさん、バイク通勤で雨振ったら帰るのキツいだろうし、10日のことを考えたら、次で後悔はない。ただ、次回はなく、未完成で完成となるが。


もう一生分、恋愛したなあ。


あげは、ありがとう。


あげはが目の前で手首ザクザク切ったり、帰宅したら首吊ってたり、ケンカした後僕が一人で樹海で一晩過ごしたり、目をつぶって車運転したり、2人で樹海8時間お散歩したり、一緒に線路に飛び込もうとして終電逃して失敗したり、何度も何度も「健常者と産まれたら…ゴメンね」と謝られたり、「愛してる」と涙しながら首を絞め合ったり、書き残したいことはあるが思い残すことはない。


誰か僕のために泣いてくれるか? 僕はあげはのために死ねるか? 杉良太郎かよ。


両親に


産んでくれてありがとう。幸せになります。


太一さんやユウコさん、ナオキさん、ヨウヘイさん、トムさんとゴウシロウさん、芦田さんや工藤くん、松尾くん、スズさんや大谷や令緒さん。コバ、了ちゃんや宮本、シカ先輩、みんなとしゃべりたかったな。もっと遊びたかったな。でも、もう時間だ。あ、もちろんヤスシさんもパン屋がんばってくださいね。


ゴメンね。ありがとう。


できない自分への失望、どう向き合っても付き合えない絶望、切っても切り離せない業。気が狂いそうだ。狂ってしまえれば楽だ。楽しくなれる。早く気が狂ってしまえばいい。動けなくなればいい。我慢しなくていい世界。


ちょっと疲れちゃった。ちょっとだけね。全然大丈夫だ、疲れたフリだ。


僕くらい強いと、床拭くのにウェットティッシュが必要ないま、涙を吹いたティッシュで代用できる。ぐらい。


そろそろユウコさん帰ってくるし、太一さん起きるから泣くのやめよう。3日後まで心配させちゃいけない。迷惑かけちゃダメだ。泣きやもう。


落ちる曲を変える勇気。


「この原稿を読んだ僕は3日後に死ぬ!」とか日野日出志風に。


今日もゆら帝は僕に優しい。脳に優しい。

著者のKitahara Kyousukeさんに人生相談を申込む

著者のKitahara Kyousukeさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。