最愛のビッチな妻が死んだ 第16章 8月10日まで
準備を始める。
通販サイトでバラバラに購入して集めたトラベルミン30箱、海外から取り寄せたカフェイン200ミリの錠剤12個。100錠入りだから、このトラベルミンとカフェイン、2つだけでも致死量は軽く超える。
箱はバレないようにすでに廃棄済。今日は当日メンドくさくないように、時間取られないようにシートや瓶からクスリを出して、パケにまとめておく。
やっぱり、この作業意外と時間がかかる。先にやっておいてよかった。
プチプチとシートからクスリをパケに落とす。この作業のひとつひとつが死へと向かってるんだなと、手先が震える。
時に力強く、時に震えながら、2時間ぐらい作業。
カフェイン1200錠、トラベルミン180錠、レボトミン500〜600錠、トリプタノール40錠、サインバルタ275錠、レンドルミン50錠、ドグマチール90錠、リフレックス70錠、ベゲタミン1錠、ハルシオン66錠、デパス108錠。
太一さん帰ってきた。怪しまれないように、一回ゴミ捨ててこよう。
残りのクスリのゴミは牛乳パックの中に入れて捨てた。あげはが好きだったというか、本当の好き嫌いは関係なく、使わないと眠れなかったため、愛用していたデパスとハルシオン、僕の肩に化学式のスミが入ってるこの2つは、あげはの好きな66と煩悩の数108錠w
念を入れ、明日リスパダール450錠足しとこ。
体重53キロ、クスリ約1キロ。これが僕の命の重さだ。
命の値段? 知るわけがない。
クスリ吐いちゃわないように念のため、プリンペランとガスター10も6錠づつ追加しとこう。プラス、飲み始める前に両方6錠づつ飲んどこ。
吐き癖あるから心配だ。もし、吐いてしまったら吐瀉物飲もう。絶対に失敗はしない。首吊り要素も入れておこうかな。
あとは前日にすり潰そう。ネットで注文したピルクラッシャー間に合うかな。赤いヤツ。届かなかったら乳鉢でシコシコ砕くかね。
親に家賃滞納がバレて言われた「のうのうと生きやがって」。のうのうと、だと? だったら、よかったのにね。
クーラーが壊れた部屋でヨガやってたら、望まれないホットヨガとなり、死にかける。汗だくだ。
10日のための金を借りるため、プロミスとアイフルにネットと電話で契約。今日は前の職場に人が少ない土曜日だ。
ちょうど計ったように職場には1人しかおらず、「疑ぐり深い取材者うんぬんで、電話かかってきたら、キタハラは働いてるとお願いします」
話はカンタンに通った。金貸しは企業名を名乗らず、個人名で電話かけるのを悪用利用した審査の通し方。楽勝だ。先に電話がきたプロミスと契約。オンラインで口座に金あとは10日を待つばかりだ。金曜日でも月曜日でもできない、この作業を終えられたのは助かった。何度目かの綱渡り、成功し続けて今日生きているが、10日まで絶対うまく勝ち逃げしてやる。
6日
夢を見た。あげはだけがいない世界だった。
トムさんにあげたいモノや見せたかったモノも貸せた。心残りがなくなった。
僕は明確な殺意を持って僕を殺す。
「きみは引力を信じるかい?」つてジョジョのセリフを思い出す。運命、因果、業や赤い糸、色々な例え方があるけど、あげは、きみは引力を信じるかい? 引力を感じるかい?
僕は感じたから、信じてるよ。
あと4日。明日は仕事とスミで使って、2日間ですり潰す。最後の日はスミと、残ったすべてをあげはに。使い切って、あげはのそばに行こう。
7日
あと3日、今日は夕方からだと思ってたスミが昼間からに。ラッキーだ。今日で右腕終わるといいな。
10日は心置きなく背中に集中してほしい。本当は左腕から左胸にピンクの龍も入れたかったけど、時間がない。
背中も2ショットのスジ彫りだけでも完成するといいな。
「死に急いでますね」
とスミを彫る彫師のスズさんに言われてドキっとした。
その発言は描き途中の死神のことを指していたのだが、内心は文字通り死に急いでいる僕はバレてホッとしたような、見透かされたうれしさで少し笑った。
右腕をスカルで埋め終わった。
リボンやバラ、棺桶や手紙、腕1本あげはへのメッセージで埋め尽くしてある。
2人で相談して、下絵なしで僕の腕を埋め尽くす。何度も「コレ、モテないですよ〜」とか「コレ見て寄ってくる女、ロクなヤツじゃないですよ」と言い合って彫ってもらった。
「あげはと2人で観に行った映画が『狂い咲きサンダーロード』だから、『狂』って入れてください」
だって僕は狂っているんだから。
「一眼見てキチガイだって分かるように、この人、イカレてるって分かるように、気持ち悪く、埋め尽くしてください」
「あげはの入れたがっていた『Bipolar disorder』(双極性障害)と彫ってください」
僕はあげはの旦那だから。
「flashback」「dejavu」などの単語も彫ってくれた。
本当はこの右腕を「野望の王国」みたく、オノで叩き斬って、あげはに捧げたい。
色も入れてほしかったけど、スズさん忙しそうだし、台風の影響で雨振りそうから次に回す。スズさん、バイク通勤で雨振ったら帰るのキツいだろうし、10日のことを考えたら、次で後悔はない。ただ、次回はなく、未完成で完成となるが。
もう一生分、恋愛したなあ。
あげは、ありがとう。
あげはが目の前で手首ザクザク切ったり、帰宅したら首吊ってたり、ケンカした後僕が一人で樹海で一晩過ごしたり、目をつぶって車運転したり、2人で樹海8時間お散歩したり、一緒に線路に飛び込もうとして終電逃して失敗したり、何度も何度も「健常者と産まれたら…ゴメンね」と謝られたり、「愛してる」と涙しながら首を絞め合ったり、書き残したいことはあるが思い残すことはない。
誰か僕のために泣いてくれるか? 僕はあげはのために死ねるか? 杉良太郎かよ。
両親に
産んでくれてありがとう。幸せになります。
太一さんやユウコさん、ナオキさん、ヨウヘイさん、トムさんとゴウシロウさん、芦田さんや工藤くん、松尾くん、スズさんや大谷や令緒さん。コバ、了ちゃんや宮本、シカ先輩、みんなとしゃべりたかったな。もっと遊びたかったな。でも、もう時間だ。あ、もちろんヤスシさんもパン屋がんばってくださいね。
ゴメンね。ありがとう。
できない自分への失望、どう向き合っても付き合えない絶望、切っても切り離せない業。気が狂いそうだ。狂ってしまえれば楽だ。楽しくなれる。早く気が狂ってしまえばいい。動けなくなればいい。我慢しなくていい世界。
ちょっと疲れちゃった。ちょっとだけね。全然大丈夫だ、疲れたフリだ。
僕くらい強いと、床拭くのにウェットティッシュが必要ないま、涙を吹いたティッシュで代用できる。ぐらい。
そろそろユウコさん帰ってくるし、太一さん起きるから泣くのやめよう。3日後まで心配させちゃいけない。迷惑かけちゃダメだ。泣きやもう。
落ちる曲を変える勇気。
「この原稿を読んだ僕は3日後に死ぬ!」とか日野日出志風に。
今日もゆら帝は僕に優しい。脳に優しい。
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