一点集中で人生が開ける話~何かに夢中になる事は恥ずかしい事なのか?やりたいことやって生きようぜ~
言葉を発しようとすれば、言葉の代わりに泣き崩れる母。
ちょっと前まで、一緒に飯食って、一緒に本読んでたやん。
ちょっと前まで、一緒に笑いあってたやん。
父の膝で眺めた難しい本、父の香り、優しい声。
夜になって、朝がきて、もしかして父が帰ってきてるかもしれないと父の寝室をのぞいて見ても、そこには何もなかった。ただ寂しさがこみ上げてくるだけだった。
学校へ行って、家に帰って、また夜が来る。泣いて、泣いて、朝になる。
小学生の俺にはとうてい受け止めきれない悲しみは、母親でさえも受け止められずに母は泣き明かして痩せていった。
泣いても、泣いても、勝手に太陽は昇って、1日が始まっていく。
そして勝手に夜になって、また次の日になる。
父が死んだ日から、俺たちだけが取り残されたみたいだった。
俺たちの悲しみや寂しさは誰にもわかってもらえないみたいだった。
「なんで、俺のところなんや。」
「なんで、お父さんがいなくなるのが俺のところなんや。お父さん嫌いや言うてたあいつの家じゃなくて、なんで俺の家なんや。」
いきなり父が死んでしまって、小学5年の俺と3年の弟と、どうやって生きていけばいいのだろう。
漠然とした不安に押しつぶされそうだった。
父は、死んでしまった。
大盛況だった焼き肉屋は母一人で切り盛りできるはずもなく、ふらっと店を見に行くとお客さんがゼロだった日もあった。

「俺んち、どうなるんやろ・・」
店が繁盛しなくなるのは、さすがにヤバいのではないかと小学生ながらに思っていた。
野菜1つを買うにしても、3軒のスーパーをはしごして一番安い野菜を買うように言われた。
ピンポーン
弟と二人で留守番をしていると、家のドアフォンが鳴った。
玄関まで出て行くと、そこにはちょっと前まで家族ぐるみでよく遊んだおばさんが来ていた。
「お母さんは?」
母は仕事で家にいなかった。
「どうしよかなぁ。あんたとこの借金、取り立てに来られて困ってんねん。」
「え・・」
「聞いてないん?おばちゃんな、お母さんの借金の保証人してんねん。でも、それもやめたいし、お金も返してほしいから、電話してって言うといて」
借金・・?
保証人・・?
小学生の子どもには、ハッキリとは理解しがたい言葉だった。
しかし、この家がド貧乏でヤバいことだけはハッキリと理解できた。
ある日の夕方、胸騒ぎ。
そんなある日、友達と遊んでから帰宅すると、母と弟の姿がない。
いつもなら、2人ともいるはずの時間なのに。
少し違和感を感じて、自転車で二人を探しに行った。
雑草が生い茂る、小さな踏切に母の姿が見えた。

ハッとした。
「おかん!何してんねん!」
自転車を立ち漕ぎ、全速力で飛ばして叫んだ。
「おかん!!」
俺の声を聞いた母は、線路手前で立ち止まり、大声で泣いた。
弟と、駆け寄った俺を抱きしめて泣いた。
「ごめんなぁ・・ごめんな・・」

俺が不安に思ってた以上に、父のいない未来に不安を感じていた母。
家に男手がいないという不安。収入がないという不安。なんだかわからない不安。
母は、死んで父のところに行きたくなったみたいだが、やっぱりそれは間違ってる。
「なるようになる。」
それからは、これが俺たち家族の合言葉になった。
運命の再会
時は流れ、俺は高校生になった。
入学式が終わり、クラブ活動の紹介があった。
身長が高い俺は、柔道部に誘われた。
「君のようなやつは柔道をしたほうがいい!すぐスター選手になれるぞ」
柔道か・・自分の理想とは少し違うような気もしたが、誰かに必要とされていることが嬉しかった。
柔道部に入ろうかと思って体育館に入った時、ふと目に入った光景に俺は心奪われた。

「これや!俺がやりたかったのは、これや!」
一瞬、父の顔が浮かんだ。
「空手は暴力や。暴力は、あかん。」
でも、もう父はいない。
何より、空手部の練習風景に、心を掴まれていた。
小さかったころ、亀仙人に鍛えてもらいたかった願望が、ここなら叶う気がした。
高校生活は空手に没頭した3年間だった。
高校生にして身長が185cmもあった俺は、体格的にも恵まれていた。
大学に進学するときに、クラスのみんなは偏差値とか、知名度で大学を選んでいた。
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