一点集中で人生が開ける話~何かに夢中になる事は恥ずかしい事なのか?やりたいことやって生きようぜ~

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しかし俺の志望校は、偏差値でも知名度でもない。

近くに空手道場がある事。
学費が安い、国立大学である事。
すべり止め受験はできないので、絶対合格する事。

この3つの譲れない条件にあてはまる大学に進学した。

夢を与え続けてくれた先生


大学生になって、俺は毎日道場に通った。
道場の先生は、体格に恵まれた俺に期待を寄せてくれていた。
しょっちゅう自宅に招いて食事を振る舞ってくれたし、何より俺に夢を語ってくれた。

「お前は、やれる。絶対にチャンピオンになれる人間や。」

空手を始めて3、4年ほどの俺に、チャンピオンになれると断言してくれた。
体格と腕力のおかげで、新人戦はぶっちぎりの優勝だった。

新人戦のあとには地方大会があり、それから全日本大会がある。

ぶっちぎり強いと言ってもまだ新人戦レベルの俺に、日本チャンピオンを目指せと言ってくれた。

「チャンピオンになれよ。この道場から世界チャンピオン生み出そうや!」

先生は、俺をチャンピオンにするため、道場にウエイト器具を置いてくれたり、大量の飯を食わせてくれた。

外部から全日本クラスの選手を呼んで稽古をつけてくれたこともあった。

俺が強くなれるためには何でも協力してくれた。


先生と二人三脚で空手を極めていった俺は、新人戦や地方大会で優勝し、ちょっとした有力選手になっていった。


迎えた初めての全日本大会。

「俺は皆なぎ倒して、チャンピオンになるで!」
意気揚々と出場した。


一回戦負けだった。

地方大会と全日本大会の壁は分厚かった。出場選手のレベルが違う。圧倒的なレベルの差に、愕然とした。

「それでも俺はチャンピオンになる」


人生でここまで、腹の底から燃える思いは初めてだった。

父が死んでから目の前の景色に色が無くなったような人生だった。
空手に没頭し、日常が輝きを取り戻していた。

一回戦負けという現状を突き付けられたあと、すぐに次の全日本大会でチャンピオンになるための猛特訓が始まった。

来年の全日本大会は、世界大会の予選でもある。ここで決勝まで勝ち残れば、世界大会への出場権が得られる。

「来年の全日本で優勝して、世界チャンピオンになる。」

まだ1回戦負けの実績しかない俺だったが、絶対に世界チャンピオンになると心に決めた。


俺には空手しかない気がしていた。

父が死んで、楽しかった毎日が一変した。
母は死のうとするし、弟は家出するし。(この話は割愛する)

父が死んだ日からずっと、楽しいとか、面白いとかそんな気持ちになれなかった。
でも、空手に出会って、心の底からワクワクした。

世界チャンピオンになることで、今までの何かが報われるような気がしていた。
ずっとつらかった。
ずっとさみしかった。
ずっと貧乏だった。

何もない俺は、何かになりたかった。

人並み以下の人生を逆転するには、世界チャンピオンになるしかない気がした。


人生を狂わせた道場忘年会

年末、空手道場で忘年会があった。先生の奥さんお手製のおでんが振る舞われ、酒も大量に用意されている。

しかし俺は、先生の空手道に少しだけ疑念を持ち始めていた。

強い空手って何なのか。先生はチャンピオンになったことがあるのか。

忘年会で酒を飲みすぎたというのもあり、俺は先生に突っかかった。

俺は強い。この道場からチャンピオンになる人間だ。

心のどこかに、俺ならば何をしても許されるという傲慢にも似た気持ちがあった。
先生に少しぐらい偉そうな物言いをしても、許されるだろうと思った。

「お前は、破門や。出て行け」


いつものように、笑って許されると思った。
チャンピオンになるはずの俺が、空手の道を閉ざされた。
自分のおごり高ぶった態度で、俺は自分の夢を叶える場所を無くしてしまった。


すぐに謝れば良かったが、それができずに泣きながら道場を飛び出した。
身長185cmの大男が、大晦日の夜に泣きながら走った。

嗚咽を漏らしながら家に帰ると、母が起きて待っていた。
「道場、破門になった」
ちゃんと説明しようとしても、泣けてきてこれ以上は喋れなかった。

母は黙っていた。


空手に人生をささげようと思ったけど、練習する道場もないし、どうしようかな。そんなことを考えていたある日。
突然電話がなった。

空手界の重鎮からだった。

「俺のところで空手やれよ。」

どうやら、先生のところを破門になったという噂を聞いて、俺をスカウトしてくれたようだ。
新人戦や地方大会でのあばれっぷりに一目置いてくれていたのだ。

移籍先の道場は、自宅から少し離れた場所にあった。
「交通費、いるやろ。出したるからな。月謝も、いらんわ」

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