僕が阿波踊りをはじめた理由

著者: 石坂 達
大学三年の夏だった。
ふと、高円寺の阿波踊りを見に行こうと思った。

僕はその二ヶ月後に大学を休学し、一年間の世界一周旅行に出る予定で
その前になんとなく「日本の祭りでも見ておくか」と思ったのだった。

JR高円寺駅。
電車を降り、夕暮れのホームに立つと、もうすでに祭囃子が聞こえてくる。
笛の音色が風に乗り、太鼓の音が空気を揺るがす。
提灯が町を怪しく照らしている。
自然と、心が躍ってくる。


とりあえずビールと焼き鳥。
飲み歩きながら、色んな連の踊りを見て歩く。
二拍子に合わせて、本当に、心から楽しそうに踊っている。
年に一度の祭りに、情熱を、すべてをぶつけているような。
見ていて熱くなった。
血湧き肉躍るようだった。


日が暮れ、夜の商店街。
そこで、僕は身体に障害を抱えた人たちの連に会った。

車椅子の人がいた。
その人はどうやら、首から下が動かないようだった。
それでも、首を上下左右に動かし、その人は踊っていた。
これまで僕がであったこともなかった、満面の笑顔で。

僕は泣いてしまった。
仮に自分が体を動かす自由が奪われたとしても、
それでもなお、踊ることができる。
踊る自由は残されている。
そう思った。
一人、夜の高円寺で泣いていた。


世界一周から帰ってきて、僕は阿波踊りを始めた。
そして今でも魅せられている。
二拍子のリズムに。

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