アホの力 3‐11.アホ、思う

前話: アホの力 3‐10.アホ、また自画自賛する
次話: アホの力 3-12.アホ、腑抜けそうになる
著者: 戸田 光司
夏の公園に、子供達のにぎやかな声が響く。
その声を聴きながら、大人達がまったりと過ごす。
ここは、原発事故被災地にいきなり出現した『楽園』だった。

 

先に『みんな共和国のシンボルは櫓だ』という話はした。この櫓は、大人と子供が一緒になって、開催期間中ずっと作り続けるものだ。毎日どこかしらに手が入り、改良されていく。まるで『サグラダ・ファミリア』みたいだ。櫓をつくる子供達は、さしずめアントニオ・ガウディか。

櫓にはジャンプ台が付けられる事も恒例になっていた。高さの違うジャンプ台。子供は高いところから飛び降りたるするのが好きなのだ。皆さんにも経験は無いだろうか。私などは未だに好きだ。
始めは低いジャンプ台を飛ぶ事が出来なかった子も、次の日には飛べるようになり、さらにその次の日は高いジャンプ台から飛べるようになる。小刀やのこぎりもそうして使うこなせるようになっていく。子供は冒険しながら色々な事にチャレンジしている。子供の吸収力や適応能力は凄いのだ。窮屈な常識や世間体に囚われて成長が止まった大人など、子供には到底敵わない。

そんな子供の力を間近に見て、私などは毎日驚く事ばかりだった。ここは大人が子供を遊ばせる場所ではない。子供が人間の持つ可能性や創造性を示す場所だ。私はこの場所で、私が今後なすべき事を思った。南相馬全体が、こんな創造的な場所になるには…と。てっぺんに椅子が置かれ、つり橋が出来、クライミングが出来る壁が出来て…と、どんどん櫓は形を変えていく。こんな創造の場は、無くしてはならない。

 

50人ほどの参加者から始まった『みんな共和国 手のひらを太陽に!大作戦!!』だったが、最終日には数えきれないほどの参加者に恵まれた。
この日は何と、夏の終わりに毎年放送されている『24時間テレビ』とのコラボが実現したのだ。
事前にTV局から『南相馬から中継したい。中継場所は高見公園で』という話を頂いていた。その際、公園で遊び場を開いている我々と何か一緒にというコラボのお誘いを頂いていた。当日は公園内に特設のステージが設けられ、キッチンカーなども出店し、芸人さんなども来て、大変にぎにぎしくなった。もちろんTVカメラも来ていた。
南相馬は一時期『ゴーストタウン』と呼ばれ、『人が住んで良いのか』『住民の間にガンが多発するのでは』と言われた街だ。放射能を避けようと街を離れた人も多い。
その選択も正しい。尊重しようと思う。
けど残ってこの街で生きる事も正しいのだ。
こうしてたいそうな盛り上がりを見せたこの夏の高見公園は、その事を世に知らしめるとても重要な役割を果たしたのだ。

『楽園』を創り出して見せたのだから。

私はこの『楽園』に関わる事が出来て、とても幸せだったし、とても誇らしかったのだった。

著者の戸田 光司さんに人生相談を申込む

続きのストーリーはこちら!

アホの力 3-12.アホ、腑抜けそうになる