生きると決めた日、それを忘れた日々、思い出した今日⑤
⑤生きると決めた日
彼の言葉の全ては俺に突き刺さった。
親に捨てられ、3歳の頃には見返すことを決断し、豚小屋のようなところに押し込められながらも、強くあり続け、そしてある日折れてしまった男の話を、彼はしてくれた。
男が浮浪者の頃、どこだかで聴いた音楽が、自分のそれまでのものと大きく違うことに気付いたという。
自分のためにじゃダメだと。
誰かのためにやる音楽じゃなきゃダメだと。
男は気付いたという。
俺も同じだった。
いつのまにか、やることなす事が自己満足のためになっていた。きっとそのせいでダメだったんだ、そう思った。
俺は彼に
「俺と同じ歳の頃は何していましたか?」と聞き、
「放浪していた。」
と彼は答えた。
それが俺が旅に出たきっかけだ。
追えば何かが見える気がしてならなかった。
この人を追いかけたいと思った。
彼が海外で認められるトレーナーだからじゃない、国内最王手事務所と契約していたことがあゆからじゃない、人間の部分に共鳴した。
その点において俺は他の生徒と違うと自信があった。
証明してみせる。
そして必ず俺は蘇ってみせる。
親父の分まで生きて世界を驚かせてやる。
音楽の力を、人の心の力を知らしめて、1人で苦しんでいる人を失くしてやる。
そう強く思った。
それが生きると決めた日になっていた。
ほどなくして長く続けていた仕事を辞め、二十万を切るわずかな資金で旅に出た。
世界は広く、どうしようもないものと、愛おしいものと、混沌して入り混じっていた。
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