心友 【其の十四(完)・再会】

前話: 心友 【其の十三・無言の帰宅】
著者: 山口 寛之
駅前のホテルでチェックインを済ませる。
部屋に入ってからは核心に触れることなく、お互いの近況などを話していたように思う。
その話題に触れるのが怖くもあり、まだ信じたくない気持ちがどこかにあったからだろう。
だが、何かのタイミングで自分もトクシマも堰を切ったように涙が止まらなくなった。
もっと何度も見舞い先に足を運んでいれば。
用はなくてもそれとなく電話ぐらいしていれば。
そんな後悔の念ばかりが頭を過った。
トクシマも似たような感覚だったのでなかろうか。
30にもなろうかという大の男が二人して泣きじゃくる。
端から見たらどんな光景に映ったことだろうか。
ホテルという密室だったのが幸いだ。
とことん飲み明かして語り尽くしたのか、それとも酒を一滴も入れることなかったのか。
トクシマは覚えているかもしれないが私はそのあたりの記憶がない。

翌日の葬儀は粛々と行われた。
遺影が二つ並ぶ葬儀は後にも先にもこの時しか経験がない。
クロイワもクロイワの母も、慌てて探したであろう写真にしてはいい表情をしているものだった。
親族の席には十年ほど前に会ったことのあるクロイワの従兄弟達が列席している。
あんなに幼かった子ども達が立派な青年に育っており、中でも男の子の方は若い頃のクロイワそっくりな顔立ちになっている。
何とも不思議な感覚だけが残った。
葬儀の後トクシマの車で新幹線の停車駅まで送ってもらうことにした。
秋田からそのまま乗ってもよかったのだが、まだまだ話し足りないし名残惜しさがあった。
車内から撮影した雪景色の写真が手元に何枚かあるのだが、一体この時どんな話をしたのだろうか。

あれから既に16年の月日が流れた。
心身ともに色々起こる年齢に差し掛かったが、自分もトクシマも何とか生きている。
クロイワの分も生きなければいけない。
そんな思いは常にどこかにある。
真面目に生きようとまでは思わないが(笑)

トクシマとは離れ離れの生活を送っているが、昔に比べれば互いの近況を知ることもできるし、タイミングさえ合えば一献傾けることもある。
そんな時は決まってクロイワ話。
「あれからもう何年だなぁ…」から始まって中身は毎度変わらない。
クロイワが生きていれば幹事にでもなって不定期な再会をしょっちゅうやっていたのかもしれないが、あっちの世界へ行ってしまってもこうやって自分とトクシマを再会させる役目をずっと果たし続けてくれているのはなんとも奴らしい。
お前に会うのはまだまだ先になると思うが、それまでのんびり待っててくれ。クロイワ。(完)

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