その弐 舞子さん

前話: 祇園で過ごした子ども時代
著者: 大川原 千代子

舞子さんの資格



舞子さんって芸姑さんとどう違うのか…。
いまは、アルバイトのように舞子さんになったりできる時代だそうなので、なんとも言えないんだけど、わたしが子どもだった頃のお話。

舞子さんというのは、芸姑の見習いで年はだいたい13才から16才くらい。
いまの時代だと、労働基準法に触れますよね。

舞子さんは中学生もいて、祇園の近くの中学校には頭を丸髷に結ったまま制服を着て通っている子たちもいました。
舞子さんの髪は地毛で結います。
長い髪を一週間に一度くらい丸髷に結ってそのまま過ごすんです。

舞子さんの反乱


わたしの子どもだった頃、大事件がひとつ。
芸姑さんの子どもで小さい頃から踊りや三味線などのお稽古事をしてようやく舞子ちゃんになった女の子。
きれいな着物にだらりの帯。
そしておこぼ。
ハレの日を迎えて、本人もお母さんも嬉しかったと思う。

ところが、なんとその日の夜、その女の子は頭が痛いといって、鋏を持ち出して自分の髪の毛を切ってしまったの。

6才からのお稽古は子どもにとっても厳しいものです。
踊りの名手と言われたお母さんは、この子の晴れ姿をどれほど待ち望んできたことか。
でも、もうどうしようもありません。
髪の毛の短い舞子というものは存在しないし、舞子を経ずして芸姑になるということもありません。
子どもの時から何年もかけて積み上げてきたことを一瞬で断ち切った女の子。
郭では大事件として噂になりました。

「ご祝儀」


舞子さんは無給だって知ってました?
舞子さんはあのきらびやかな着物や帯、みんな置屋が作ります。
特に、この女の子のように、お母さんもこの道の名の通った芸姑さんだったりする時は、えり善さんなど、京都の最高級の呉服屋さんで毎月の着物と帯を新調します。

当時であっても100万円くらいの価格はしたと思います。
たったひとりの舞子さんのために毎月新しい着物と帯そして髪飾りも新調します。

この費用はいっさい置屋が持ちます。
なので舞子さんは無給。

でもでも、実際には「ご祝儀」というチップが、舞子さんにも支払われます。
これはお花代という正規の報酬とは別のお小遣いのようなもの。

この「ご祝儀」は、お座敷にほんのちょっとでも顔を出したら全員に渡されるもの。

なので、舞子さんや芸姑さんは、あちこちのお茶屋さんのお座敷を毎日駆け巡ります。
ひとつのお座敷に人気者の舞子さんや芸姑さんは15分くらいしかいません。
ご挨拶、というほんのちょっとの顔見せをするのです。
それでもお花代と「ご祝儀」はカウントされます。
たぶん、大企業の部長さんくらいの収入はこの「ご祝儀」で稼げているのかもしれません。


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