爺っちゃんと桜
「爺っちゃんよ~! 頼まれた桜の枝、持ってきたでぇ。 接ぎ木すんのか~?」
こうして、母体から切り離された僕は、爺っちゃんにあずけられた
「ありがとうよ~ その辺に置いといてくれやぁ」
ほどなく、僕は爺っちゃんの手によって、接ぎ木された
「爺っちゃんよ~! うまく行くといいが、その花が咲く頃、あんた、この世にいないぜきっと!」
爺っちゃんは色々な人からそんな事を言われたが、黙々と僕を育ててくれた。
いつまでたっても、接ぎ木部分がしっくりこなくてね・・
自分の体じゃぁないような、そんな変な感じがずっと続いていた
風が強い日なんて、もう腰が折れそうで怖くてね・・
そのたんび、爺っちゃんがせっせと補強してくれたんだ
僕が毛虫を嫌いなこと、爺っちゃんも良く知っていて
手がかぶれちゃうのに、爺っちゃんは手で毛虫を追い払ってくれた
何年経った頃だろうか・・
もう全体が自分の体のように感じてきた頃かな・・
まだ完璧とは言えないけれど、少しだけ花を咲かせてみた
そう言えば、ここ数年、爺っちゃん来てくれてないな・・・
「この桜か~ 爺っちゃんが接ぎ木して育てたって・・」
「なかなか立派に咲いているわよねぇ」
「ねぇねぇ、お爺ちゃんがこの桜を植えたの?」
「そうだよ、お前が生まれた時、お前が大きくなったらさ、満開になったこの桜の下で、
みんなでお花見するんだって、そりぁ楽しみにしてたんだ」
「ふ~ん、そうなんだぁ。もう少し長生きしてくれたら、お花見できたのにね・・」
僕が爺っちゃんの死を知ったのは、その時でした
そうか・・、爺っちゃん、死んじゃったのか・・
僕が、もう少し早く成長していればな・・・
もう強い風が吹いても大丈夫
少しくらいの毛虫にも慣れたよ
たぶん、もう何年かしたら、僕一番の、最高の花を咲かせることができるよ
爺っちゃん、もう少しだったんだけどな・・・
(30年後)
「お~~い!ちゃんと場所確保したか~!」
「あ、先輩~、ばっちりですよ!」
「おお、よくやった。この辺ではこの桜が一番なんだ」
「知ってますよぉ、伝説の爺さんが育てた桜ですよね?」
「おお、良く知ってるな、うちの役員さ、この桜じゃないと煩せ~んだよ」
「サラリーマン、大変っスね、先輩」
爺っちゃん
お陰さまで、僕は人気者ですよ
一年に一度だけだけどね
でも、僕はここでお花見する人のために咲くんじゃないよ
爺っちゃんとの約束、忘れてないから・・
「オレは死ぬまでお前を育てる。だからお前も、もうダメって時まで、しっかり咲いてくれ」
爺っちゃんと僕だけの会話
ちゃんと覚えてるからさ
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