若年性脳梗塞になってみた その7 ~ 病院愛憎劇場終幕 大事なことは検査でもわからないけど側にある ~
もう、壊れかけた自分にとっては傷付くも何も『どう問題なくそれをすり抜けるか』が対応の焦点。
笑顔が張り付いた顔で「あー、来てくれてありがとうございます。夫君は今日、仕事だね~」と答えるとあからさまにがっかりした顔。
「何かたりないものはあるの?」
「いやーおかげさまで十分すぎるほどですよ。しいて言えばお酒が飲めないことぐらいが不満かな~・・・なーんちゃってw冗談冗談。さすがに今は体が欲しがらないや。」
そうおちゃらけて答えるとふーっとわざとらしいため息を付かれました。
「あんたはお気楽でいいな!!!人が心配してきてやってるのに!」
なんだか頭の中でガチャリと何かが壊れた音が聞こえました。
でも口は勝手に動きます。顔も笑顔のままです。
「あははは・・・そりゃそうだね・・・・すいません。」
その日は夫がいなかったせいか、母は早めに帰宅しました。
帰宅後、なんだかわけもわからず笑いが込み上げてきました。
「ウハハハ・・・・すげーアイツ!病人にそんなこと言うか~さすがや~
自殺はマズイか~夫と病院に迷惑かけるもんな~~
それにしてもすげーー!!死に掛けた人間にすげーなーアイツ。俺なら言わんわ!本当にすげーったら!!!」
ゲラゲラと笑う自分がもう壊れてしまったのだと思いました。
こんなに病気と不安に押しつぶされそうで、でも必死に周りに迷惑をかけたくなくて頑張っていたけど・・・
心をごまかし悲しみから逃げてずっと笑っていて、おちゃらけていたけど・・・
こんな無理解の人達の中で 不自由な体で
生きていけるのか 生きていくべきなのか
その言葉で分からなくなってしまったのでした。
一笑いを終え、横になると何とも言えない空しさがありました。
正直死ぬのはさほど怖くありません。
ただただ何とも言えない・・・井戸に落ちてしまったようなそんな空しさでした。
夕食後、休日出勤を終えた夫がやってきました。
「今日はゴメンネ~遅くなって。大丈夫かい?君が好きなコーヒーも買ってきたよ。起き上がれる?飲める?」
私は頷き夫からコーヒーを受け取りました。ずっとコーヒー飲みたいと言っていたのを覚えていてくれたようなのです。それが嬉しかったのと逆に心苦しさを覚えました。
彼は私が生きたら一番迷惑をかける人です。
でも死んでも一番迷惑をかける人です。
彼は嘘やお世辞は言わない人なので、思い切って聞いてみました。
「あのさー・・・
もし、私がもう二度とご飯作ったり家事出来なくなったりとかになったら・・・どうする?」
「え、どうする?どうもしないよ。
何もできなくても一緒に居るよ。何を当たり前なことを・・・・」
夫は至極当たり前な顔でそう答えました。
「そりゃーできる範囲はしてほしいけど。でもできる範囲で十分。あ!ズルはだめだけど(笑)
だって自分も出来る範囲しかしないしできないし。同じことだよ。まあ退院後の体調次第ではヘルパーさんとか頼むかもしれないけどね。」
そういうと夫はごくごくとコーヒーを飲みました。
その夫の普通さ、気張らなさを見て・・・なんだか気が抜けました。
「そっか・・・そりゃそうだね。」
そう親に言われようとも誰に言われようともなにも気にすることはなかったのです。
この人は自分と生きていくつもりでいる。
自分もこの人と生きていくつもりでいる。
それでいいのだと。
そこに拘ったのは私の見捨てられるかもしれないという恐れだっただけだったのでした。
その8へ続く
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