シルエット

著者: 彭 祐祥
 駅の改札口を抜け、ホームへ向かおうとする時、俯いて地面をそっと眺めている男がいた。男はプラスチックの黒縁メガネをかけ、無造作の赤いTシャツの上にジーンズ、どうやら大学生の雰囲気を発散しているようだった。
 駅というのは、もとより多彩の人々が混み合うところである。ベンチの上に横たわるホームレスもいれば、長時間スマホをいじっていてひたすら笑っている変人など、どんな見方によっても電車を待っているわけではない変人もいる。
 よく考えてみれば、ただでさえ顔を下に向けてぼうっとしている大学生ぐらいなら、さほど変わらないじゃないだろうかと祐也は思った。
 男の右の靴ひもがとけていると祐也はふと気付いた。しかし男は全く気にしていないようで、そのまま地面を暫く凝視して、男はまた顔を前に向け直し、片方のひもがとけた靴を履いたまま、歩き出した。
 なんか影が薄いな。祐也にはこんな感じしか浮かんでこなかった。
 もちろん実際に影が薄く見えるわけではない。ホームの明るい照明に照らされ、男の足元にもちゃんと影ができていた。
  男が自分の乗る電車の反対側の電車に乗るまで、祐也はじっとその寂しそうな背中を見つめていた。そして、見送った。

*****

 一人暮らしのワンルームに帰ったのは、すでに夜の八時過ぎだった。缶ビールを冷蔵庫から一本取り出し、片手でプルトップを開けながらテレビの電源をつけた。
  何やらまた通り魔事件が起こったらしい。しかも電車で乱暴していた犯人に3人殺されたという、結構惨めな事件だった。
 なんとか気味が悪くなったので、ビールを一口飲んでから、祐也はチャンネルを変えた。しかしどんなチャンネルにしても同じニュースが流れている。仕方なく祐也は半分諦め、ニュースを見続けることにした。
 歯切れの良い男子アナウンサーによると、犯人は今年20歳になった男子大学生で、生活を退屈だと思い、何か偉いことをしようと、無差別の犯行を犯したという、なんかバカバカしい理由だった。
 そう思いつつ祐也はまたチャンネルを変えた。
 「あっ!」
 チャンネルが変わった途端、叫び声に近い声を漏らした。
 テレビのスクリーンに映っているのは、プラスチックの黒縁メガネをかけた男だった。
 ただいま駅で見た、影の薄い男だった。
 「あああああぁー」
 今度は本当に叫んでいた。

*****

 当たり前のことだが、事件は自分と全く関係なかった。しかし布団の中で、祐也は何度か寝返りを打ってもなかなか眠れない。
 窓の外から差してきた街灯の明かりで出来た自分の掌の影をじっと見ていると、溜息をついた。
 「そん時、声かけたらよかったよなー」
 誰にもなく、独り言で呟いた。
 その時、靴ひもがとけてますよとでも声をかけてみたら、そんな悲しいことは起こらなかったのかましれない。根拠もなく、祐也はそう思っていた。
 もし近づいてきた人間の影が自分の影と交えたのを見て、自分にも影がちゃんと出来てるなと、思えるようになったら。

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 人生初めて小説みたいなものを書きました。しかも日本語で(台湾人です。)。まだまだ不足な部分も沢山あると思うのですが、よろしくお願いいたします。

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