私はここにいる(書き換え)

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「食事しようか?」
「ううん、朝が遅かったからお腹空いてないの。アイスコーヒーでいいわ」
「俺もお腹空いてないんだよ」
真壁は手を上げてすみません、アイスコーヒー二つとウェイトレスに言った。

ほまれはテーブルの下で手をモジモジさせていた。
何から話せばいいのかわからない。

「真壁君、ずっと独身なの?」
やっと言葉が出た。
「いや、バツイチだよ」
「そうなんだ。私と一緒ね」
アイスコーヒーが運ばれて来た。
「人間、みんないろいろあるさ」
「子供さんは?」
「一人いるよ。男の子。前の嫁さんのところにいる。ほまれは?同窓会の時、妊娠中だったもんな。もう随分大きくなってるんじゃないか?」

ほまれは子供の話になると嬉しくなる。
「もう二十歳になったよ」
そう言ってかばんの中から手帳に挟んだ一枚の写真を真壁に渡した。

娘と二人で写ってるものだった。
真壁は写真を見て
「ほまれに似てるな。目元そっくりだ。君も若いし」
「娘だけが自慢なの。でもこの子も私に似て変わり者だけどね」

真壁はほまれを見つめた。
「あれから20年たつけどほまれの目は変わってないな。卒業してから渋谷の駅でほまれを2回見た。声かけられなかった。ある時、仕事サボって朝から渋谷の駅でほまれが現れるのを待ってたことがある。でも現れなかった」
ほまれはアイスコーヒーのストローをグラスの中でクルクルと回した。
「何で?真子のことが好きだったんじゃないの?良く食事行ってたんでしょ?」
「あれは、ビルが向かい合わせにあっただけ。外を見たら真子が窓のところに良くいたから。ただの昼飯だよ」

二人のアイスコーヒーが飲み干された。

「少し歩かない?」
真壁が言う。
「いいよ」
二人は外へ出た。
ほまれは空を見上げる。相変わらず灰色だ。いつか地球は滅びるな…

二人は当てもなく歩いた。

駅に繋がる地下道が見えた。
「私、帰るね」
「えっ?う、うん」
ほまれが階段を降りて行く。
「ほまれ!」
真壁が叫ぶ。
「俺を…俺をあの時のように買ってくれないか?タダで」
ほまれは真壁の方へ階段を駆け上がり
「欲求不満なの?ごめんだわ」
「違う!ずっとほまれのことが好きだった。今でもだ!」
真壁の目は真剣だった。
ほまれはうつむいたまま黙っていた。

いいかな…
もう一回人を好きになってもいいかな…
ほまれは灰色の空を見てハァーと息を吐いた。

ほまれは真壁の方を見て微笑んだ。

かばんの中から何もないものを取り出す。
「はい、100万円!」
見えない札束を渡すフリをする。
真壁はニッコリ笑いその見えない札束をポケットに入れるフリをした。

「あの日に戻ろうよ!」
ほまれは真壁の手を繋ぎ笑いながら走った。真壁も笑っている。
何もかもが可笑しくてたまらなかった。

「どこだったっけ?」
ほまれはキョロキョロする。
「こっちだよ!」
真壁が走る。
「待ってよーもう歳なんだから!」
「しょうがねえな」
ラブホテルの前に来た時、真壁がほまれをお姫様抱っこした。
「ちょっと!恥ずかしいじゃん!やめてよ!」
「やめない」
そのまま二人は未来の世界へと入って行った。





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