私はここにいる(書き換え)

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「昨日、セックスしてたくせに」
「あれは違うよ。事務員が俺に話があるって…」
「じゃ、何で鍵閉めてたの?」
「付き合ってくれって告白された。いきなり裸になって私を今ここで抱いてって。それは無理だって言ったら泣き出して困ってたんだよ」
「ふーん、嘘かどうかはしらないけど」

「キスしてもいい?」
ほまれはうなずく。
平田とは違う感触。違う肌、違う香り。
ベッドの中に沈んで行く。
二人は互いに求めあった。何回も何回も。
ホテルの食事を取りそれからも求めあった。言葉などいらなかった。

夜になった。ラブホテルを出たあとほまれも真壁も心地よいダルさに酔いしれていた。
「どこ行く?」
「もういいよ。疲れたし飽きたでしょ?明日、学校だし」
「飽きてなんかいないよ。俺たちこれで終わりなのか?」
「学校で会えるじゃん」
「そう意味じゃなくて…」
真壁らしくなくモジモジしている。
ほまれはニッコリ笑った。
「私は真壁君を買ったのよ。ホストクラブの客と同じ。男はお金出せば女を買えるでしょ?私もやってみただけ」
「俺の気持ちはどうなる?」
「気持ち?私のことなんかすぐに忘れるよ。あんなにモテるんだから」
真壁は黙っていた。
「残りのお金ちゃんと持ってる?あれは嫌なお金だから早く使ったほうがいいよ」
「ほまれが傷ついた金だろ?じゃ、この金が無くなるまで…」
「私が真壁君を好きになったらどうするの?」
真壁の言葉をさえぎるように言った。
「真壁君が女子とチャラチャラしてるの見るの嫌なんだよね」
ほまれは何かが吹っ切れたような感じになった。
「俺はほまれが好きだ」
真壁がほまれの目を見つめて言う。
「モデルくらいならなってあげるよ。この目でしょ?みんな目だけで私の心までわからない」
「そんなことない!ほまれは変わっているけど優しいし…あの…良かったし」
「良かった?ふーん、私、いいもの持ってるんだね」
ほまれは嫌味に言った。

「また明日、学校で会おうね」
「俺と付き合ってくれないか?」
真壁はほまれが消えないように腕を掴んだ。
「やめてよ!」
真壁の手を振り払った。
「楽しかった。ありがとう」
そう言ってほまれは一人で駅に向かった。真壁も追いかけてくることはしなかった。

電車は満員だった。
ほまれはドアのところに立った。黒いガラス窓にくっきりと映る自分の顔を見つめていた。

愛ってなに?
人間ってなに?
男と女ってなに?

黒いガラス窓に映る自分の顔に問いかける。
多分、答えは死ぬまで見つからないのだろう。

ほまれは自分の部屋のベッドへと寝転んだ。

「ほまれ、気持ちいいよ…」
真壁が何回も口にしていた。男ってみんなそう言うんだろうな。

くだらない。
ほまれはつぶやいた。

翌日、学校の準備をしているとかばんの中に札束が見えた。

あれ?真壁に渡したはずなのに。
数えてみる。100万きっちりあった。
ほまれは呆然とする。
何で受け取らなかったのか、何でいつの間にかばんに入れたのか。

真壁の男としてのプライドだったのか。
学校で何と言えばいいのか。

教室に入るとほまれが一番先だった。
後からぞろぞろと生徒たちが入って来る。

「おっはよー!」
真壁が教室に入って来た。
ほまれは目を反らす。

それ以来、真壁と話すことはなくなった。
一度、真壁のアマチュアバンドのライブがあるというのでクラスメイト全員でライブハウスに行った。
真壁はボーカルで歌も上手かった。
かっこいいと思った。
「俺と付き合ってくれないか?」
その言葉を信じたら自分は到底真壁にはついて来れなかっただろう。

ほまれが愛した男はどんなに卑怯だったにしろ後にも先にも始めての男である平田だった。

入学して2年がたった。
真壁と言葉を交わすことなく卒業式になった。
クラスのみんなはデザイン事務所へと就職していった。
忙しい中にもまだクラスメイトたちと付き合いがあった。

明美から電話がかかって来た。
「あさって飲み会するからほまれ来れる?」
「うん。行く」
女子だけの集まりだった。
ぶりっ子の真子が
「真壁君と向かい合わせのビルなんだよね。たまにお昼とか一緒に食べてるよ」
「あんたたち、デキてるんじゃないの?」
明美が冷やかすように言った。
「そんなんじゃないよ」

ほまれは何とも思わなかった。

時が過ぎ女子はちらほら結婚して行った。

一番先に結婚したのはほまれだった。23歳で娘を産んだ。

妊娠中、同窓会があった。
目立たないような含むを着てほまれは出かけた。
クラスメイト全員が来ていた。
真壁もだ。
「みなさーん、聞いて下さい!ほまれが妊娠しています!」
拍手が起こった。
真壁と目が合ってしまった。
「おめでとう」
真壁はそれだけ言った。

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