『東京』

著者: 田口 弘起

 「東京」は、人を骨と皮にさせる街である。

 行く前に全身に詰め込んだエネルギーが、新大阪行きの新幹線に乗った途端に、からっぽなっていることに気付く。それは私が東京という街に、持ち合わせていた心情を置いてきたわけではないし、ましてや置き忘れてきたわけでもない。遊び尽くして思い出話を語る浅黒い男の子も、深く腰をかけ口を大きく開けて眠るビジネスマンも、私たちは「東京」という街に搾り取られた後の酒粕となって自らの家に帰っていくのである。

 だから「東京」という街は、無限成長機構なのである。人のエネルギーを吸収し続ける限りにおいて、この街は永続的に進化する。上りの新幹線に憧れて飛び乗る精悍な若者が、夢潰えて肩を落としながらすごすごと退場する人間模様。それは彼に才能がなかったのではなく、彼の才能を搾り取った「東京」という街に責任があるのである。


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