スーパー・プラトニック・ラブ
晩秋の風の中を色づいた枯れ葉が舞っていた。
古い木造の校舎は底冷えがした。膝を寄せ合うように彼女と僕はひとつの机を囲んだ。
十五歳、中学三年生、放課後の教室。
彼女の友人が僕たち二人のためにつくってくれた時間だった。
彼女は頬杖をつくと楽しげに微笑した。
僕はその口元を見つめていたいと強烈に感じながらも、その思いを見透かされているような気がして、やり場のない目線をカーキ色の校舎の窓に向けた。
彼女が白い紙を広げて十円玉を置く。
「ここに人差し指を置いて。」
僕の指が彼女の指先に触れる。
初めて触れた彼女の体だった。
「コックリさん、コックリさん、おいでくださいって言って。」
体温が一気に迫ってくる。
僕は裸の彼女を抱きしめたように赤面した。
「もしおいでになられましたら、『はい』へお進みくださいって言って。」
彼女の呼吸を感じる。
僕はますます無口になる。
教室に二人きりだ。
二人の指先が小さな十円玉の上で立ち止まっている。
初恋という言葉を知ってはいても、こういうときに何をすればよいのかが、僕にはわからなかった。
息を吸っても、吐いても、指先が触れ合う。
動き出して触れたいという衝動と、このまま静かに彼女の呼吸を感じていたいというジレンマの中にいた。
彼女もまた何も言わなかった。
けれども、僕とは違って、目元を緩め、ゆったりと息をしていた。
長い時間だったのかもしれないし、ほんの数秒だったのかもしれない。
彼女がもう片方の手でふうっと前髪をかき上げたとき、僕にはもう逃げ出したいという思いしかなかった。
彼女は潤むような目で僕を見た。
いや、僕が泣きだしそうになっていたために、その瞳が濡れているように見えた。
僕は、かすれるような声で言った。
「帰ろうか。一緒に。」
僕は彼女の手を握っていた。自分でも思いがけないほど自然に。
どうしても好きだと言えなかった。
好きだという仕草をすることもできなかった。名前を呼ぶことも、そして、それ以上のことも、何もできなかった。
ただ、一瞬、触れ合った指先に彼女の体を感じ、一度だけ手をつないで教室を出た。
秋風が吹くと思い出す。
生涯にただ一度のプラトニックラブは、カーキ色の風に乗って瞬く間に通り過ぎていった。
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