【ぞうれっしゃがやってきた!③】

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 ゾウ達は東山動物園のマスコット的存在になっていった。子どもたちの人気者になったのだ。戦時の鬱屈した空気を和らげる働きを,ゾウ達は担ってくれたのだった。しかし戦況はどんどん悪化し,食べ物を手に入れることができなくなっていった。

「ゾウに餌を」

と町中を懇願して廻っても,

「今は人間様が食うのが大事だ」

と,とり合ってもらえない。そんな中,動物園には最悪の命令が下されてしまった。


ドウブツヲコロセ

 動物達を殺せと言うのだ。動物園に爆弾が落ち,檻が壊れて動物達が逃げ出したら,人間を襲うだろう。その前に殺処分せよというのだ。

 園長は抵抗した。動物達がどんなに素晴らしいか,なんども軍に出向き,延命を懇願し続けた。しかし決定は覆らなかった。そして動物園にはあるまじき,殺戮が始まったのだ。



 最初は猛獣といわれる種類のものから行われた。ライオンは毒入の肉を食べて死んだ。ヒョウは,ワイヤーロープを首に巻き,ウインチで巻き上げて絞め殺された。ツキノワグマは,あまえて後ろ足で立ち上がるポーズをとった時に,ライフルで射殺された。動物園の職員たち,殊に飼育係の心は,深く傷ついていった。

 ついに,ゾウの番がきた。ゾウにはまず,毒入のリンゴが与えられた。しかし頭のいいゾウ達は,毒リンゴには見向きもしなかった。しかたがなく飼育係は,毒薬を注射しようとした。ところがゾウの皮膚は分厚くて硬いため,注射針が刺さらなかった。飼育係達は,泣きながらゾウに謝り続けたという。


 その間も園長は軍に出向き続けた。ゾウはおとなしい動物です。ゾウは殺さないで下さい…園長の必死の願いが,やっと通じた。ゾウは殺処分を免れたのだ。


餌をねだるしぐさ

 しかし事態は好転しない。戦争はますますひどくなっていく。ついに食べ物が底を突いた。その時ゾウ達は,飼育係達の前で芸をしたのだ。後ろ足で立ち上がるパフォーマンスをしたのだ。

 飼育係達は涙をこらえられなかった。そのしぐさは餌をねだるポーズで,そのポーズをすると,決まって餌がもらえたからだ。1人の飼育係が叫びながら事務室へ駈けていった。彼はほどなく出てきた。そして彼は

「食え,これ,食え!」

と言いながら,自分たちの食べる筈だった握り飯をゾウに投げたのだった。

(つづく)

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