口を開けて寝る人
電車で、口を開けて寝ている人を見ると、開いたその口の中に何かをポイッと投げ入れたくなる衝動に駆られることがある。
この僕が、担任の先生に「君の頭はツバメの巣みたいね」と言われていた、モジャモジャ頭の中学一年のときの話。
当時、僕のまわりでは、友達の口の中に消しゴムのカスやチョークを投げ込んで友情を育んでいた。
その方法は、友達の口を見つめながら、
「ちょっと!どしたん!口ん中よ、口ん中!え?うわっ!嘘じゃ!それ大丈夫なん?」
そう言うと友達は、100パー、口を大きく開けて見せてくれた。
僕の右手には消しゴムのカス。カスではなく、消しゴムのままのときもあったり、または、チョークである。それがバレないように、右手は背中にまわしてある。
友達の表情はというと、
「え!?ホンマに!?そんなにヤバい感じ!?どんなことになっとるんよ!?」
という不安で少し泣きそうになっているところに、ポイッとね。
友達は一瞬、自分の身に何が起きたのかわからず、数秒ほど口の中にある違和感を味わうことになる。
その顔が、とにかく笑えた。
大人になったであろう今の僕は、もうそんなことはしない。
でも、電車の中で目の前に口を開けて寝ている人がいると、自分が手にしているつり革が、もし消しゴムだったら、と思うことがある。
僕は、ツバメの巣と言われていたころから、一体何が変わったんだろうか。
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