塾講師として、ボクがしていること

著者: キョウダイ セブン

 「塾講師として、ボクがしていること」

 ここは、三重県の北部。鈴鹿山脈の麓の農村地帯だ。田は一家を支える大切なものだが、塾生のBくんの父親は田を一枚売却して大学の授業料を捻出した。Bくんは、その事実を知っていて猛勉強していた。国公立でないと、授業料を払えないからだ。

  そんな時、ある子はプレッシャーに負けたり、性格が歪んだりする。しかし、Bくんは、そういうタイプではなかった。誰を責めるでもなく、ただ一心に勉強していた。

   Bくんのような立場の子を多く預かっている以上、私は適切な学習環境を提供して授業水準を維持する責任がある。

 中学生にもなると事情は変わる。ヤクザのような子と「仲良くしなさい」と強制され、着たくもない制服を強制され、したくもないクラブを強制され、やりたくない宿題を強制される。

 いじめる側と、いじめられる側を同じクラスやクラブに放り込んだら殺人も起こる。アメリカのように、授業毎に移動しクラブの出席を自由にする学校があってもいい。学区を外して、学校を選択させた方がいい。

 私はアメリカに住んでいた時に、怒った記憶がほとんどない。最初こそ、無料のパーティなどに招待されると「洗脳しようとしているのか?」と身構えたが、すぐにそれが誤解だと分かった。

 怒る必要がなかったのは、ユタ州が末日生徒キリスト教会の会員が多いことに関係していたと思う。そもそも敵国として戦っていた日本人の息子である私を受け入れてくれたホームスティ先のブレアーさんは人格者だった。

 父は学歴にこだわる人だったので、末っ子の私が四日市高校や名古屋大学に合格していったのは、嬉しかったに違いない。英検一級、通訳ガイドの国家試験に合格した時に「英語は終了」と思った。高校数学を京大二次で7割とって「高校数学は終了」と思った。

 私は、父の期待に応えるつもりはなかった。ただ、野心があっただけだ。

 この辺には、英検1級を持ち、京大二次試験で英語8割、数学7割とれる塾講師は少ない。だから、Bくんタイプの子は、「どうすれば、そんな学力が身につけられるのですか?」と方法論を尋ねてくる。私は全て話してやる。

自分に子供ができて考えが変わった。できることなら、親の期待に応えてやって欲しい。

 帰国後の、厳しい塾間競争の中で、私はアメリカで身につけた生活態度を維持できなかった。ある日、電話があり母親らしき人が、こう言った「高木さんは、塾をやめるのですか?さっき、X塾の人がみえて高木塾は閉鎖するから、こちらに移って下さいと言われました」。

今は、娘たちの期待に応えてやりたいと考えている。

この頃に気づいたことがある。地元の東員第一、第二中学校、北勢中学校、藤原中学校、員弁中学校、大安中学校、陵成中学校、光陵中学校のトップグループの子がたくさん来てくれている。四日市高校国際科、桑名高校理数科の子も来てくれている。

 そういう成績トップの子たちは、マナーも良いし、常識もあるし、信仰の原型のような勉強方法を理解している。お祈りではないのだけれど、成績を上げるために強い願いが心に宿っている。心の持ち方がゆがんでいると成績は上がらないものだ。

   独裁や、全体主義には、ついていけない。

 キリスト教徒と、イスラム教徒を同じ地区に無理やり押し込めたらトラブルが起こるだろう。同じ目的を持った人たちで、協力しないとうまくいかない。   理想論を前面に押し出すと、無理が生じる。野球が好きな子は、野球部。音楽が好きな子は、吹奏楽部。やりたくない子は、帰宅すればいい。

ユネスコ憲章(前文)が言っているのは、異なる人を無理やり同じ場所に押し込めることではない。異なることを前提に、お互いのことを知ることを勧めているのだ。

 北海道から鹿児島まで、開成から洛南まで通信生の申し込みがある。ありがたいことだ。ほとんどの子が、旧帝か国立大医学部をめざしている。「娘が帰り道にスカートをめくられた。どんな教育してんねん!」というタイプの子も、親もいなくなった。

私は人を憎み、怒鳴りながら暮らしたくない。成績優秀な子が集まってきてくれて、気づいてしまった。「これは、かなりユタ州の生活に近い」。英語やフランス語ができることは楽しい。数学の壮大な世界に触れるのは、感動的な経験。

 英語や数学を、他人を蹴落とし、金儲けの手段としか考えない人は好きになれない。「誰でも、当塾に来れば難関校に合格できます」みたいなサギ師にもなりたくない。

 「無料体験授業って何回まで大丈夫ですか?」と尋ねられることがある。「5回ですか?10回まで大丈夫ですか?」。「ここで、娘を桑高に合格させると約束して下さい!」。

 四日市高校に通う生徒が、よく言う。「四高には、常識のある子、マジメな子、将来を夢見る子が多くて、毎日が楽しい」。良い子に囲まれると、自分も良い子になれる。

 ユタで、よく聞いた言葉がある。「いいかい、シゲミ、怒る人より、怒らせる人が悪いんだ」。

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