フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第2話

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「でも、私 口下手な方で」


「大丈夫、上手だとか下手とか気にしないって。

   案外、下手な方が 慣れてない感じで初初しく感じるもんだって」


「でも話が続かなかったらどうすればいいですか?」


「は? とにかく口が自信ないなら手でやってあげればいいじゃん。それで満足する人もいるよ」


「???手で?」


「そう手で!」


どうやら話がかみ合っていないようだった。

その瞬間、私は自分が何か勘違いしていることに気がついた。

でももう遅かった。


「はい、じゃコレね。さ〜行ってみようかー」


まるで曲のスタートを促すDJのような軽い口調で黒服は言った。

その手にはおしぼりが握られていた。


震える手でおしぼりが受け取る私。


バカだ、何が全ては想定内だ。

無知すぎたんだ。

でも今はわかる。怖いくらいわかる。

これから始める行為の全容が私は理解できた。


おしぼりと一緒に渡された伝票に6番という数字がある。

6番席のまでの距離が少しづつ縮まっていく。

手の届く距離まで近づくと背もたれに垂れてタバコを吸う男の

禿げ上がったバーコード頭がもろに見えてきた。

青ざめた顔でしばらく見下ろしていた。


行って  という黒服の男の囁く声がした。

私は凍りついたように動かない体で何とか口元だけ動かした。


「失礼します」


蚊の鳴くような声でいうのが精一杯だ。

オヤジが振り返った。

だらしなくたるんだ浅黒い顔で二ヒヒと笑った。


「きたね、待ってたよ。新人さんだってね」


まだ少し離れているというのに吐く息が臭いのが分かった。

ほらほら、ここにかけなさいよ

と男が言うより早く

私はその場から逃げた。


更衣室に駆け込み

衣装を脱ぎ捨て

服を着ると風のように走った。

女の子たちの、あーらという視線や

黒服と店長の声にも反応せずは走った。


店の外へ出ても走り続けた。


走って走って、息ができないくらい苦しくなってスピードを落とした。

我に返ったように周りを見渡して見るとそこは線路沿いだった。

私は紅潮した顔で前を見ながら、歩き続けた。

このまま家まで帰ろうと思った。


帰宅したのは深夜12時過ぎ

厚底サンダルだったので足が棒のように感覚がなくなっていた。


アパートの部屋に入ると、ベッドにドサッと倒れこんだ。


身体中疲れて痛い。身も心もクタクタだ。

傷を負った野良犬のような気持ちだった。


そのまま寝てしまったようだ。

起きると深夜3時近い時刻だった。

激しい空腹を感じたので戸棚の中にあった煎餅と水道水を飲んだ。


そして再び冷静さを取り戻した私は

ベッドに座り 色々考えた。

私は間違ってはいない

あんな行為をしてまでお金をもらうなどと

思いとどまって良かったのだ。

何が慣れればなんてことないだ。

慣れちゃおしまいだっていうんだよ、全く。

どこにでもいるような顔をしているくせに、あんなところで働く女たち

それからそれを斡旋する男たち

みんなサイテーだ。

命がけで産み育ててくれた母親が知ったらどんなに嘆くか?


いや、今はそんなことはいい。

忘れよう。

明日から食料もないのにどうやって学校に通うのかを考えよう。

最近出欠に厳しくなったから、学校は休めない。

バイトはどうしよう。


今になって激しい後悔の念が押し寄せた。

財布のお金を失った大きさを思い知った。

実家の母に相談するのだけは避けたかった。

前にも言ったように、生活に困窮しているはずだし心配をかけたくない。


それから携帯電話

3年分の思い出がいっぱい詰まっている。

携帯電話の充電さえ切れてなかったら

だからってそれらが戻ってくるとは限らないけど


私はハッとした。


もしかしたら充電されているかも。

私と同じ機種を使っている人は割と多いのだ。


アパートの近くに公衆電話があった。

私は小物入れに思いついた時  小銭を入れていた。

その中から10枚ほど10円玉をかき集めた。

充電してないのだから当然 受話器からは  

電源が入っていないか電波の届かない所に……

という機会的な音声が聞こえてくるはずだった。

でも違った。

私の電話は息を吹き返していた!


3コールめで声が聞こえてきた。

若い女性の声だった。

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