鈴の音

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著者: 桐生 刹那




巫女服の女は僕が来た事を確認すると、僕の手を取って歩き始めた。


その手は生きている人間ではないという事がはっきり分かる程冷たくて、

しかし当時の僕は、安心する程それが心地良く感じた事を今でも覚えている。



巫女服の女は僕を連れて神社の裏手に来ると、

友達が探索した時にはなかった筈のどこかへ続く小道へと入っていく。


今にも埋もれてしまいそうな林の隙間にある小道を暫く歩けば、その先にはとても美しい湖があった。




なんて綺麗な場所なのだろうか。

まだ何も知らない僕は、その湖の美しさにただただ魅かれていた。


巫女服の女は湖の前で立ち止まると、湖の向こう側を指差す。

指差した方を見ると、黒い影のような手を形をした何かがこちらを手招きしていた。





あぁ、これは非常にマズいと思うも既に時遅し。

僕の身体は、僕自身の意思と反して勝手に湖に入っていく。


服の中に入る水の感覚は一切ないが、

自分の中の何かが身体から引き剝がされるような、そんな感覚に陥って気分が悪くなる。



薄れゆく意識の中、

(僕はもう死ぬのか? 嫌だな、ようやく身体も安定して退院したばかりなのに。

もっと病院と家以外の、外の世界を知りたかったなぁ…)、と思う。


湖の水はもう既に首まで来ていて、元々水が嫌いな僕は呼吸するのも苦しい。




擦り切れた意識と死を受け入れる身体。


その切羽詰まった状況で意識が落ちて視界がシャットアウトした瞬間、

再び、、、チリーン、チリーン。



鈴の音が聞こえた気がした。




「おーい!何やってんだ!早く来いよ!」




友達が呼びかける声がした。


気付くと僕は最初に鈴が聞こえた所と同じ場所、

一つ目の赤い鳥居を潜る途中に茫然と立ち尽くしていて、服がびしょびしょに濡れている。



僕はとても怖くなって、友達にもう二度とあの神社へ行かないようにと念を押して、

家に帰った。




僕の家は一族で旅館経営していて、お客さんの中でも稀に“コチラ側”の人間が来る事もある。


丁度その日、僕がお母さんに着替えを取りに行って貰ってる間に旅館の囲炉裏で寛いでいると、

向かい側に座っている綺麗な女の人が僕に話しかけてきた。




「ねぇ、君ココの子?」


「?そうだよ」


「そっか。ズボンの左側のポケット、ちょっと見て貰える?」


「?うん」




僕は女の人に言われた通り、ズボンの左側のポケットの中を漁る。


すると、、、







チリーン、チリーン。


あの鈴の音と同じ音をした紅い紐がついた綺麗な鈴が一つ。



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