発売1年で世界で20,000台販売「不可能」といわれた“聴覚サポートイヤホン”開発秘話
今、WHOが警鐘を鳴らす問題のひとつが「聞こえ」に課題のある難聴者の増加です。その数は、世界で約4.6億人。2030年にはその倍の9億人を超えるともいわれる世界規模の社会課題です。しかし、その対策となる補聴器は見た目、値段、医師の診断が必要などの課題から、普及率は欧米先進国で約30~40%、そして日本では約13.5%にとどまっています(※1)。
そんななか『補聴器とは異なるアプローチで聞こえの課題に挑む』ことで注目を浴びるのが、2016年に誕生した「聴覚サポートイヤホン」です。スマートフォンを利用し、たった5分で自分の聞こえや、音の好みに合わせた「音の最適化」が可能。さらに、通常の補聴器の10分の1の価格を実現しています。2019年に発売開始した「Olive Smart Ear(オリーブスマートイヤー)」はわずか1年足らずのうちに、世界で約20,000台を販売。「聴覚サポートイヤホン」はどのように生まれたのか。株式会社Olive Union(オリーブユニオン)の代表取締役社長ソン・ミョンクン氏に聞きました。
ー 子ども時代に明け暮れたものづくりは現実に。大学在学中にサムスンのプロダクトデザイナーチームに抜擢
私は1987年に韓国のソウルで生まれました。小さい頃から未来を描いた日本のメカ系アニメが好きで、小学生のときはアニメから着想を得ては放課後、発明クラブの活動に熱中していました。
そこからものづくりの道への確信を持つのは2008年。世界で最も多くのスマートフォンを製造し、韓国を代表する企業サムスン直下のSAMUSNG ART & DESIGN INSTITUTE(サムスン アート&デザイン インスティテュート )でプロダクトデザインを学んでいた大学2年生のときです。
私が手掛けた、日常生活での鍵の締め忘れを防止するプロダクトが、世界三大デザインアワードのひとつ『Red Dot Design Award』で『Best of Best』という賞を受賞したのです。同じタイミングで、「サムスンでプロダクトデザイナーとして働いてみないか」と声をかけられ、大学に通いながら社員と同じチームで働くことになりました。授業と仕事の両立は想像以上にハードで、遂には栄養失調で入院するほど。それでも自分が選んだ道でNo.1になりたいと必死でした。その日々があったからこそ、『頑張ればちゃんと結果がついてくる』ことが確信に変わり、いまの自信につながっています。
世界三大アワード「Red Dot Design Award」で「Best of Best」を受賞したミョンクン氏の「鍵」のプロダクト
ー初めて自分の中で「なぜ」に答えられた。叔父が抱える難聴という病との出会い
2年間のサムスンでの仕事を経て大学を卒業。コロンビア大学院の建築科に進学しましたが、そこで学んでいたことは未来の都市計画やNYの交通渋滞を緩和する方法など。サムスンで実際のプロダクト作りに携わっていた私にとって、どれもリアリティのある問題ではありませんでした。周りの友人に「なぜこれをやるべきなのか?」と問うても、誰も答えをくれず「課題だから」という答えばかり。その時の私にはそれがとてもフラストレーションでした。
そんなとき、家族と離れて暮らしていた私を気にかけてくれていたのが、アメリカに住んでいた叔父です。週末になるとよく韓国料理を振る舞ってくれたりと、私にとって叔父との時間は特別でした。当時、叔父は難聴を患っており、会話を楽しむために数十万円の高価な補聴器を買ったのですが、聞こえ方に満足できず、1週間もしないうちに使うのをやめてしまいました。
ミョンクン氏と“聴覚サポートイヤホン”の開発にきっかけになった叔父夫婦
こんなにも高価なのになぜ満足のいく「聞こえ」にならないのかを知りたくて、叔父の補聴器を分解してみました。プロダクトデザイナーだった私には、その補聴器の原価は5,000円ほどに見えました。実際の販売価格は、その100倍ほどです。大事な家族がその補聴器に期待と信頼を寄せていたからこそ、ものづくりをする者として強い憤りを感じたことを覚えています。同時にそれは、叔父の「難聴」という課題に出会い、「大切な家族のために」という今まで見つけられなかった『なぜやるのか』に初めて納得する目的ができた瞬間でした。
リアリティのない遠くの誰かの課題を解決するのではなく、目の前の大切な人のために一刻も早く補聴器の課題を解決したい。そうして、補聴器とは異なるアプローチで聴覚サポートが可能なプロダクトを開発することを決意しました。
ー「不可能」といわれたプロダクトを1つ1つ実現させた強い執念
最初のアイディアは、Bluetooth機能を搭載した聴覚サポートデバイスの開発でした。今では無事に製品化していますが、当時そのアイディアをもってサムスンのオーディオ担当に相談すると『Impossible』と言われました。なぜなら自動で「聞こえ」にあわせて音を調整するイコライジング機能を持つソフトウェアを、独自で開発することは相当な技術が必要だったからです。
しかし、すでに技術を持っているメーカーから部品を購入すると、補聴器の価格が高騰してしまう。そして性能に関しては、使用者が自分で音の調整ができない仕様のものが多いため、聞こえに満足していない場合は再度、専門機関に通わなくてはなりません。つまりそれらの課題を解決するためにはソフトウェアの独自開発は必要不可欠だったんです。
そこから兵役(*2)に従事している2年間は補聴器市場の調査や、ビジネスモデルの設計、プロダクトやソフトウェアの開発仕様を作成することに集中しました。そして2016年3月から1人で起業する準備を進めたんです。まずは一緒に試作機を開発をできる仲間を探しましたが、韓国には音のアルゴリズムを作れるエンジニアがいなかったため、世界中から技術を持つエンジニア採用を進める必要がありました。
投資家からの資金調達のためにプレゼンを重ね、補助金の申請、試作機の開発、経理、採用などをほとんど1年間、1人で行っていました。プロダクトデザインと開発以外は全てが初めてのことだったのでたくさん失敗もしましたし、資金が尽きそうになってヒヤヒヤしたこともありました。とにかく一つ一つが手探りでした。
「聴覚サポートイヤホン」は補聴器や集音器の市場にありながらも全くの新ジャンルのプロダクトだったため、だれも正解を知らないという未開の分野です。だからこそ今までの『頑張ったら結果は必ずついてくる』という経験を信じて、ただトライし続けました。
ー『人生をかけて取り組みなさい』と背中を押された12月31日の奇跡
やっとのことで試作機が出来上がり、私は2016年11月にアメリカのクラウドファウンディングサービスINDIEGOGO(インディーゴーゴー)を使い新商品の先行販売を始めました。
INDIEGOGOによる約1億円の資金調達で開発した聴覚サポートイヤホンの初代モデルと、次期モデルの試作機
私たちにとって初めてのお客様はひとりの男性でした。当時商品はまだ試作機の状態で、私が持っていたのは思いとコンセプトのみ。それでも彼が購入してくれたのは、アイディアとそこにある可能性への期待だと感じたんです。信頼して購入してくれたその人にとても、とても感謝しましたね。
その後、順調に売り上げも伸びていき記念すべき1期目の最終日、2016年12月31日のことです。突然、INDIEGOGOから大量の通知が届き、iphoneが鳴り止まなくなったのです・・・。大勢の購入者がサイトに殺到し、私たちのプロダクトを購入してくれるという奇跡が起きたんです。
その1日でこれまでの累計売り上げを超えるほど。もう、何がなんだか全くわからず、もちろん嬉しいのですが本当に信じられない気持ちでした、、。もし神様がいるとしたら『人生をかけてこのビジネスを続けなさい』と背中を押してくれているのかと思ったほどです(笑)。それほど予想だにしていない状況でした。
実はその日、INDIEGOGOで話題のプロダクトとして私たちのプロダクト「聴覚サポートイヤホン」がニュースレターで取り上げられ、それがきっかけで多くの人に見てもらえたのでした。そして彼らは、プロダクトへの期待を「購入」というかたちで背中を押してくれました。この経験は、それこそ幼少期から発明家に憧れ、ものづくりにハードにチャレンジし続けてきたこと全てが報われた瞬間であり、確信に変わった瞬間でした。
2019年の販売開始から約20,000台を販売する、聴覚サポートイヤホン「Olive Smart Ear(オリーブスマートイヤー」
それから4年。既存の補聴器とは異なるアプローチで開発された、私たちのプロダクト「聴覚サポートイヤホン」は進化をし続け、『価格・デザイン・機能性』の課題を解決しました。価格は約3万円ほど、見た目はワイヤレス音楽イヤホンのようにスタイリッシュでありながら、スマートフォン1つで簡単に自分にあった聞こえに調整ができる世界をついに実現したのです。
ー開発から4年。世界3か国で累計30,000台を販売し、「聞こえの課題」に新しい『解』を見出したミョンクン氏の挑戦はまだ始まったばかりです。
※1:出典元 Anovum- Japan Trak 2015
※2: 韓国では「兵役法」には韓国籍のすべての成人男子に「兵役」が義務付けられています
【プロフィール】
ソン・ミョンクン(オーウェン)
1987年 韓国・ソウル生まれ
2006年 SAMSUNG ART & DESIGN INSTITUTEに
プロダクトデザイン専攻で入学
2007年-2009年 サムスンでプロダクトデザイナーとして働く※在学中
2013年-2014年 コロンビア大学院 建築学専攻 / 叔父の難聴から創業を決意
2016年 7月 Olive Union Inc. 創業
2016年 11月 アメリカのクラウドファウンディングサービス
INDIEGOGOにて資金調達開始 (初期モデル)
2017年 11月 US及び韓国にてFDA認定を取得 (US:ClassⅡ)
2019年5月 本社を日本に移転
2019年10月 日本・韓国で2代目モデル「Olive Smart Ear」発売を開始
2020年11月 米国で両耳式、FDA認定取得の補聴器「Olive Pro」を予約販売開始
【会社概要】
会社名:株式会社Olive Union
所在地:〒153-0042
東京都目黒区青葉台1-30-11土屋ビルディング7階
代表者:ソン・オーウェン・ミョンクン
設立 :2016年7月4日
URL :https://www.oliveunion.com/jp/
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ