来日して2年で売上倍増。インドネシア人の僕が、なぜ福岡でデザインスプリントを教えているのか
■筆者略歴
ギラン・プラダナ博士
2012年 立命館大学 情報理工学部卒業。2014年に慶應義塾大学大学院のメディアデザイン修士課程を修了(委員長表彰受賞) 2018年、ロンドン大学に進学、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションPhD博士課程修了。ネクストクリエイションの副社長兼プロダクトデザイナー就任、福岡県北九州市を拠点にデザイン事業を展開。2018年より長浜地域雇用創造協議会より依頼を受け、対面のワークショップを実施、今年度からリモートにてオンラインワークショップを実施。
老舗餅店とコンサルティングの複合企業である株式会社ネクストクリエイション。2018年にその副社長に就任し、2年間で売上を倍増させたインドネシア人ギラン・アンディ・プラダナ。僕がなぜロンドン大学で「デザインスプリント」を学び、博士号を取得した後に福岡県北九州市へ移住したのか。餅屋と最先端会議術の不思議な化学変化の始まりを語る。
【後のビジネスパートナー「キヨ」との出会い】
僕の故郷はインドネシアの西ジャワ州ブカシ。首都ジャカルタのベッドタウンで、日本でいう埼玉くらいの立ち位置。近年日系企業が多く進出していて、日本は僕にとって身近な国だった。14年前、日本の大学に進学するという決断に、それほど不安は伴わなかった。
僕が通ったのは、滋賀県に在る立命館大学の琵琶湖・草津キャンパス。そこで、友人の紹介で知り合ったのが後にビジネスパートナーとなる清藤貴博、愛称キヨだった。当時から「金儲けがしたい」と堂々と言うやつで、将来は六本木ヒルズで毎晩パーティー、みたいな夢を見ているんだろうと思っていたら。
「俺?そこそこ見聞広めて、実家継ぐ。そんでアジアに出る。」と答えたのでびっくりした。ご両親がそれぞれ全く別の会社を経営している、珍しい家庭事情だった。お父さんは製鉄業界で長年勤めた後、「ドレンタイマーバルブ」というコンプレッサー関連部品会社『エアーテック』を設立。お母さんは北九州市で100年以上続く餅屋『高石餅店』の4代目。ただ二人とも経営理論の知識は無いから、キヨが代わりに学ぶつもりで経営学部に入ったという。
「うちは親父が直接部品の営業に行くんだけどさ、一昨年から打診してるのに『社内で合意がすぐに取れなくて』って保留のままの会社がいくつもあるって。受注する頃にはうち潰れてるんじゃない?」
時々キヨがこぼした愚痴と同じ内容を、母国でもしばしば聞いた。日本人の知り合いが多い親戚のおじさんは、「日本人は『カイギ』好きだね。1つ決めるのに10回もカイギして」と冗談を言っていた。「決まらない会議」は日本人だけの問題ではない。『ビジネス上の結論が出ない』というのは、意外と世界中で深刻な課題だったのだ。
【デザインスプリントとの出会い】
卒業後も、キヨの話は僕の心に残っていた。慶応義塾大学大学院で『デザイン思考』、続けてロンドン大学でその最速実践法『デザインスプリント』に出会ったのは、その解決法を探していた頃。僕が初めて体験した授業はこんな感じだった。テーマは、「日本の伝統産業の課題を解決する」。
ジェイク・ナップ開発の『デザインスプリント』は、5日間使う。生徒は7人ずつのグループに分かれ、テーマを見て、ポストイットに思いついたことを書く。1枚に書けることは1つだ。あっという間に出来上がった10枚ほどのメモを、模造紙に描かれた表に貼っていく。全員で行うので、模造紙はどれもモザイク画のようになる。教授は1枚をサンプルとして黒板に貼り出し、メモを分類し、タイトルをつけた。
「課題が出そろったね。技術の忘却・営業力・需要・現代生活への応用、そして人材育成だ」
この間10分、生徒同士は一度も会話しなかった。なのに、もう方向性が見え始めていた。
この5日間で、僕は「可視化できる議事録」となった模造紙、そしてスニッカーズの偉大さを知った。会議が決まらないのは、議論に熱中しすぎて本題が何だったか思い出せなくなるからだ。それに対し、このデザインスプリントは画期的だ。参加者が付箋を貼り、グループ分けした模造紙がそのまま議事録になる。しかも、どういう経緯でどこまでの議論がなされたか、全員が一目でわかる。脱線も時間延長もなく、僕らは殆ど無言だったのに終始汗だくで、予定通りに議論を終えた。スニッカーズで糖分を補給しながら。
【デザインスプリントで餅屋をリデザインする】
僕はデザインスプリントで博士号を取り、インドネシアで独自にビジネス向けの改良を続けた。
問題は多かった。僕が授業として体験したデザインスプリントは5日間。でも企業で、1つの内容で会議するなら2時間が限界だろう。ポストイットも、いずれデジタルにしたい。筆跡で書いた人が判るから率直な意見を書きづらいし、片づける時に糊が剥がれて落ちてしまうのだ。
2018年、キヨから連絡が入った。
「ギラン、俺家業継いだんだけどさ。日本に来ない?コンサルビジネスを一緒に創ろう」
僕は「行く」と即答した。『株式会社ネクストクリエイション』の誕生だった。
「企業の課題解決や新事業立ち上げを支援する」という大まかな方向性は決めていたけれど、すぐに仕事が来ないのは分かり切っていた。特に「コンサルティング」など無形の商品を売るには、どうしても実績が必要だ。
そこで実験台になってくれたのが、キヨがお母さんから継いだお餅屋だった。デザインスプリントを使い、朝礼・昼休み・閉店後などの短時間で新商品を開発する企画を行った。話が長引くと営業に差し障るし、定時で帰れない。みんなすぐに状況を理解して協力してくれた。
そして開発されたのが、イラン人インターンの考案したシナモン餅だ。「餅にシナモン?!」ってベテランの職人達は半信半疑だったけれど、結果はその年の売上が雄弁に語ってくれた。前年比3.5倍。外国人インターン活用事例として西日本新聞からの取材も来た。
【コロナ禍で、対面からオンラインへ】
福岡にある西日本新聞の取材を皮切りにメディアに取り上げられることが増え、比例してワークショップの依頼を受けることも多くなった。2020年末までに、テレビ出演回数は10回、新聞掲載回数は22回を数える。それが良い宣伝になって、大学や官公庁からも多く依頼が来た。
でも2020年、新型コロナ流行の影響で仕事は全てキャンセルになった。うちは息子が生まれたばかり。コロナ終息まで休業する方法もあるけれど…。迷いながら昔のノートを読み返していると、「デジタル化」の文字が目に入った。そして、剥がれて床に落ちたポストイットも。
「オンライン、やらない?」
キヨに電話すると、「良いね」と即答された。プラットフォーム『Mural』を導入した最初の経営会議はやはり高石餅店。しばらく続けていると、テレワークでの意思疎通に不便を感じていた従来の顧客から問い合わせが来て、デザインスプリントのオンラインワークショップも開催された。反応は上々。対面式の顧客だった企業の多くが、今度はオンライン式を依頼してくれている。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000057882.html
【自分たちが『売り手』で『お客』だから見えること】
デザインスプリントのセミナーを行う企業は他にもあるけれど、株式会社ネクストクリエイションが他の企業と違うのは、高石餅店という『実験場』を持っている点だ。高石餅店の会議にデザインスプリントを使い、社内から出た様々な指摘を集約して改良していく。
その成果が、様々な企業、行政、大学の新スタートに役立って、売上倍増という成果につながったと僕は考えている。「小さく始め、失敗を学び、改良を繰り返す。」というのがデザインスプリントの精神だ。これからもそれを忘れずに、もっと面白い「決まる」会議を創り、日本を元気にしたい!
■会社概要
会社名:株式会社ネクストクリエイション
所在地:〒801-0808 北九州市門司区葛葉1-5-15
URL :http://nextcreation.design/
Youtube: https://www.youtube.com/channel/UCZysyY79RWpOQujXQpiCx2g
TEL : 093-332-3302
お問い合わせ先:https://www.instagram.com/minnanoux/
*DMにてよろしくお願いします。
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