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80代の著者さんもおられます。

10年に及ぶ産官学連携の医薬品研究。恩師と仲間とともにがん領域の研究開発を推し進めてきたバイオベンチャーChordiaの軌跡とこれからの展望

著者: Chordia Therapeutics株式会社

 これまでに私たちは『大学発ベンチャー表彰2022』で文部科学大臣賞、『2024年第6回日本オープンイノベーション大賞』で科学技術政策担当大臣賞、そして『日本スタートアップ大賞2024』で文部科学大臣賞を受賞しました。これらの受賞は、日本の大学の知見やシーズを活用し、アカデミアの研究者と協力しながら官のサポートを得て実装化を推進してきた点が評価されたと理解しています。今回は、最高科学責任者の森下大輔が、過去10年間の取り組みと現在に至るまでの軌跡を振り返りつつ、今後の展望についてお伝えしたいと思います。


(経済産業省より提供)


【1】米国ボストンへの留学を経て、帰国後の日本での研究構想を固める

 約10年前の2013年から2014年にかけて、前所属の武田薬品工業から共同研究を推進するミッションを受け、米国ボストンのハーバード大学に留学する機会を得ました。この留学で得たこととしては大きく2つあり、1点目は自分自身の研究者としての力量が十分通用することに確信を持てたこと、2点目はアカデミアと企業間のいわゆる強力な産学連携による医薬品開発の取り組みおよび仕組みを体感できたこと、でした。特に2点目としてはアカデミアと企業間の強力な産学連携による医薬品開発の取り組みとその仕組みを体感できたことがあります。これは面識もない教授陣にアポイントを申し込み米国型の医薬品開発の在り方について日々相談をさせていただいたこと、またハーバード大学に無理に頼み込んで学生でもない私が大学院生と横並びに一緒に授業で学ばせてもらうなど、ひとつでも多くを学ぶ取るために必死で過ごした中で得たものです。


明確な目的を共有し、相互の強みを活かして協力的に医薬品開発に取り組む米国型のフレームを目の当たりにし、日本でも同様のアプローチを実現したいと強く感じたのを覚えています。帰国前3か月前には帰国後の研究を構想する中で私の相談相手になってくれた20人ほどの大教授陣と話をする中で、日本で研究を進めるなら小川誠司先生と共に進めるべきとのアドバイスを受け、大枠の構想を固めて帰国することになります。



【2】帰国後の出会いから、日本型産官学連携が始まるまで

帰国後まもなく小川誠司先生にお会いするために京都大学に伺いました。学問の発展に貢献することに対する凄まじい情熱をお持ちで、ご高名な先生であられるもののざっくばらんなお人柄であることも相まって一緒にやるのはこの方で間違いないという確信を私は当初から持ったことを覚えています。その当時30代前半だった私は、未公開の研究成果を共有していただき新しい抗がん剤の研究を一緒にしたいと無茶なお願いを申し上げましたが、小川誠司先生はその挑戦を受け入れてくださいました。

それが2014年で、半年ほどどういった研究を実施するか、ということについて懸命に都度アイデアを練り上げて京都に通いながら協議を重ねることで方向性を固めることができました。この際幸運だったのは当時の武田薬品の研究所長がこれからはオープンイノベーションのうねりが来る、大手企業であっても社外の方々と協力して進めるオープンイノベーションの時代が来るはず、だから今はまだ反対等も相当にあるとは思うけれどもこの機会にやってみなさいと後押ししてくださったことが大きかったと思います。また幸運なことに2015年にはAMEDが設立され、小川誠司先生と共に産学連携プログラムACT-Mに申請し初代の採択案件となりました。加えてAMEDのプログラム統括であった谷田清一先生は、企業とアカデミアの論理を統合し産学連携を推し進めるプロセスについて指導してくださいました。



【3】多くの方々からの協力を得て、大企業から独立し「Chordia Therapeutics株式会社」設立へ

AMEDからのグラントを獲得し、研究開発は順調に進みました。私の役割は開発候補化合物の創生であり、当時はまだ黎明期であったものの創薬エコシステムを最大限に活用して3年ほどで達成しました。この過程は、スタートアップ企業としてCRO(研究開発業務受託機関)の協力を得ながら製品を開発する先駆けとなるものだったようにも思います。このCROとの共創においては平山孝治さん(アクセリードドラッグデイスカバリーパートナーズ株式会社)のとの出会いが決定的で、所属する企業は異なるものの平山孝治さんと新薬開発の想いを共にして二人三脚で協力して進める中で、後の小野薬品工業に導出する新規抗がん剤MALT1阻害薬(以下、MALT1阻害薬)の最終化合物の創生に至ったのです。


しかし、武田薬品工業は戦略上の理由からMALT1阻害薬を含む研究を中断する決定をし、私は大きな人生の岐路に立たされました。私も正直このときは如何なる選択をするかということについてかなり悩みましたが、この時も私の覚悟を導いてくださったのは小川誠司先生で「人生の勝負時はそうそう来ない。今がその時だと確信があるなら、勝負するべきだ」という助言をいただき、私は前に進む決断をしました。


その後は、型破りだったと思いますけれども、この産官学連携の研究継続することは決して諦めない、継続するために「森下大輔、MALT1阻害薬、小川先生との共同研究フレーム」をパッケージとして他企業に売り込みに回りました。この際には、後々Chordia Therapeutics(以下、Chordia)に投資をしてくださることになる京都大学イノベーションキャピタル株式会社iCAPの上野博之部長に多大なお力添えご助言を頂き、今でも感謝の念に堪えません。売り込む中でいくつか条件を提示してくださる企業もいらっしゃる中で協議をしていたのですが、最終的には共同創業者としてスタートアップ企業Chordiaを設立し、持ち込む形で研究を継続する選択をしました。この選択についてはまた別の媒体で詳しくお話をさせて頂く予定でいます。


【4】産、官、学が相互の強みを深く理解することにより、加速した研究開発

 スタートアップ設立後には上述のiCAP上野博之部長からのご投資を頂き、小川誠司先生また谷田清一先生とMALT1阻害薬の産官学連携の研究を進めました。この間も、小川誠司先生との研究のため週の半分ほど京都に滞在する日々が3年ほど続き体力的に厳しい時もありましたが、自分の判断で全て進めることができたので速やかな意思決定と共に、持ち前の行動力でアカデミア側も必要な研究ノウハウを持っている研究者が新たに参画してくださり、また官側もさらなる大型のグラントでサポートを継続してくださる状況を醸成することができ、加速度的にこの産官学連携の研究は進んでいきました。小川誠司先生、谷田清一先生や上野博之部長とも振り返りをさせて頂くのですが、日本人研究者は0から100までを自分でやりたがる、自分だけで完遂しようとする思考傾向があまりに強すぎて、これによりとん挫することが非常に多いと考えています。産、官、学の3社が互いに相互の強みを深く理解し、その上で全体目標達成のためにそれぞれの機関が出来ることについてコミットする、その中で相互信頼が醸成されることで産官学連携の研究はさらに加速していくのだと思います。


最終的には、小野薬品工業に2020年に当時としては最大規模の条件でMALT1阻害薬を導出し、第一相臨床試験が現在実施されています。この成功は、日本のスタートアップが日本のアカデミアシーズを実装化し、国内の大手企業に導出するモデルケースとなったと考えています。



【5】より革新的なものを生み出すため、従来の「産官学連携」から「<産産>官学連携」へ

 MALT1阻害薬に続き、新たな産官学連携に基づく医薬品創出に取り組んでいます。スタートアップとしてイノベーションを生み出すためには、自社内での一貫した研究開発も選択肢の一つですが、破壊的イノベーションを生み出すためにはオープンイノベーションが重要です。産官学連携に加えて、まだ黎明期ではありますが産産連携も含めたアプローチが必要だと考えています。


この観点から現在取り組んでいる軸は大きく三つあります。第一には、今では共同研究者というよりは恩師である小川誠司先生が見出したシーズを軸とした新規薬剤の開発、第二には拡大型産官学連携の実施であり、AMEDが新たに設立した領域融合型研究に採択され、医学系、薬学系、工学系、理学系の異なる約20名の研究者と領域横断的にがんの本質を理解し、次なる治療方法を見出すための研究を進めています。第三には他企業も参画要請した<産産>官学連携であり、富士通と京都大学と共同でスーパーコンピューター富岳を用いたChordiaの開発品に関する基礎研究から臨床への橋渡し研究を実施中であり、株式会社ヒューマノーム研究所の人工知能技術を活用して国立がん研究センター研究所との抗がん剤評価系の構築にも挑戦しています。


このように、既存の枠組みにとらわれない新しい連携モデルを構築し、革新的な成果を追求していきたいと考えています。


【6】次に目指すのは、日本の産官学連携の課題を踏まえた日本型のイノベーション実装化

これまでの経験から、米国と日本の産官学連携の違いそして課題を理解し、上述の連携モデルで「日本型アカデミアシーズの実装化」を目指しています。この課題についてはまた別の媒体で詳しくお伝えできればと考えていますが、取り組みとして、1つ目は私自身が複数の大学における客員教授として大学側研究者と早期からの研究構想議論また軌道修正に取り組むことによる、アカデミアシーズの育成と実学のfavorを加えることによる実装化への底上げです。この観点から現在、東京大学、京都大学、熊本大学、名古屋市立大学、宮崎大学、国立がん研究センターで客員を務めています。


2つ目は主要学会を通じた活動でありまして、例えば日本がん分子標的学会やライフサイエンスインキュベーション協議会での講演を通じて意見交換を行っています。これらの取り組みは、まさに私自身が具現化してきた産学連携を日本型の研究者カルチャーに合わせてアカデミアシーズの実装化用に最適化しているものになりまして今後も継続して取り組んで参ります。これらの活動を通じて、「森下さんだから一緒にやりたい」とシーズを持って相談に来て下さるアカデミア研究者の方が少なからずいらっしゃることは、これまでに取り組んできたことに自信を持つことにも繋がっており大変有難いことだと感じています。




【7】次世代育成の取り組み。スーパーサイエンスハイスクールの指導者として、全国大会への進出

 産官学連携を超えて、教育の面で次世代の医薬品研究者の育成にも取り組んでいます。全国のいくつかのスーパーサイエンスハイスクール(SSH)での課題研究の講師を務めており、山梨県甲陵高校の生徒さんとは山梨県産のブドウの発がん予防あるいは抗がん作用の研究を行いSSH全国大会に進出しています。若い世代が成長し、そう遠くない未来において共に日本発の医薬品の研究を一緒にできる日を心待ちにしています。


【8】引き続き【日本発】【世界初】の医薬品創出を志す

 これまでに産官学連携という形での成果が評価され、いくつかの賞を受賞させて頂くに至っていることを大変光栄に感じています。ただ正直なところ、新しい医薬品を患者に届けたいという情熱だけで突き進んできたというのが実際かと今は振り返っています。この10年間、小川誠司先生をはじめとする恩師の方々、また盟友である現Chordiaの佐藤義彦さんをはじめとする仲間との出会いと相互信頼があったからこそ、予期せぬ研究環境の変化もあった中でもここまで歩みを止めず共に進めて来られたのだと強く実感しています。これまで一緒に取り組んでくださった方々皆様に心より感謝を申し上げ、また次なる新薬開発に一緒に取り組む機会を頂ければ幸いです。そして、Chordiaは2024年6月14日に東京証券取引所グロース市場に上場いたしました。


今後も引き続き、【日本発】【世界初】の医薬品を創出すべく、引き続き尽力していきます。


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