車椅子男性のモノクロの世界に彩りを添えた介助犬の引退、担当トレーナーの想いとは
2021年3月28日、社会福祉法人日本介助犬協会所属の介助犬ティティーが引退する。パートナーは愛知県豊田市在住の山内稔さん(48歳)。山内さんとティティーは2012年から約9年ともに過ごしてきた。山内さんは20代の頃バックパックを背負って世界中を旅するなどとても活動的だったが、その日々は2000年のバイク事故により一変する。一命はとりとめたものの脊髄損傷となり車椅子での生活を余儀なくされ、事故以降外出することも月に3日程度で定期的な通院以外に社会と接点を持たない日々を過ごしていた。そのような中、愛知県の福祉機器展で偶然にも介助犬と出会い、ティティーとのかけがえのない日々の始まりとなるが、出会った当初の山内さんの様子を日本介助犬協会のトレーナーである遠藤大輔は「山内さんはきっと何かを掴むために必死にもがいていたのでは」と振り返る。
<ヨーロッパを放浪中の山内さん(1996年)>
<事故後、山内さんの実家にて(2003年)>
遠藤は介助犬総合訓練センター~シンシアの丘~(愛知県長久手市)にて介助犬育成のための犬のトレーニング、そして介助犬を希望する障害者と犬との合同訓練などの業務を行うトレーナーである。2012年には山内さんとティティーの合同訓練も担当した。遠藤にとって4組目の担当だった山内さんとティティーの合同訓練について「これまで外出頻度が少なくなってしまっていた山内さんにとっての社会参加場面をどのように組み立てるかを一緒に考え続けました。山内さんにとっての社会参加とは『自己実現』。自身のやりたいことを制限するのではなく、実行するにはどうすればよいのか?は『諦めるしかなかった現実にもう一度チャレンジする』というチャンスであったのかもしれない。」と話すように、トレーナーとは犬をトレーニングするだけではなく、むしろパートナーとなる障害者と寄り添い、とことん向き合うことが大きな役割となる。
<合同訓練中の山内さんと遠藤(2012年)>
<合同訓練中の山内さんと遠藤(2012年)>
介助犬は肢体不自由者の日常生活をサポートする犬のこと。落としたものを拾う、携帯電話を探して持ってくる、靴や靴下を脱がせるなどの介助作業を行う。肢体不自由者の障害の程度は様々であり、その人ごとに介助犬に求めるニーズも犬が行う介助方法も変わってくるためオーダーメイドでの訓練を行っている。日常生活動作をサポートするだけでなく障害者にとっては介助犬がそばにいることで安心感が得られ、「介助犬がいるから大丈夫」と外出への不安が解消される。そして目的を達成した時、それが小さなことであっても積み重ねることで大きな自信へとつながる。その瞬間を共に感じ、共に喜ぶことが出来るのはトレーナーとして大きなやりがいの一面でもある。例に漏れず山内さんもティティーと過ごす毎日は新鮮な喜びにあふれ、こころ豊かな気持ちになり事故以前より充実した時間を送っているという。ティティーとともに飛行機や新幹線に乗って旅行に出かけ、趣味の絵画も再開した。訓練センターには「介助犬に花束を」と題した、花に囲まれて祝福されるティティーの姿を描いた作品が飾ってあり、コロナ禍以前は見学に訪れていた多くの人の目に触れていた。
<訓練センターに飾られた絵画と山内さん&ティティー(2018年)>
そして今、山内さんと介助犬ティティーはひとつの区切りを迎える。それは担当トレーナーにとっても同様だ。遠藤に今の想いを聞いてみると「介助犬と共に生きた9年間は平坦な道ばかりでは決してなかったと思います。山内さんの努力や高い向上心、意欲がなければ到達できなかった目標もあったかもしれません。希望を持ち、変わることを恐れず進み続け、ペア引退の日を迎えられることに担当トレーナーとして感謝をしています。日々思うのは、介助犬との暮らしはひとつのきっかけでしかないということです。そのきっかけを自身がどのように考え、どのように変えよう、変わろうと努力をされるか、「希望と努力」その一言に尽きます。」とまっすぐな気持ちを答えてくれた。
<日本介助犬協会の研修生制度にて切磋琢磨した同期職員と(2012年)>
2020年10月現在、介助犬は全国にまだ57ペアしかいない。「事故が起きた日から消えずに残っていた心の奥底の陰に明るい光が届き、晴れやかな新しい人生が始まった」と話す山内さんのような、介助犬とともにより心豊かな生活が送れるサポートができるよう遠藤の挑戦は続いていく。
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