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日本で唯一の介助犬に特化した訓練センター 開所までの苦難の裏側と10年を経た今、新たな領域への挑戦へ。

著者: 社会福祉法人 日本介助犬協会

介助犬育成拠点 苦難の道のり

 介助犬育成啓発活動のトップランナーである社会福祉法人日本介助犬協会。団体としての道のりは決して平坦なものではなかった。全員が無給のボランティア団体として始まり、晴れて社会福祉法人として歩みを進めることになった2004年。東京都八王子市内の賃貸ビルで運営を行っていた。ボランティア団体当時のおんぼろ賃貸物件からしたら夢のような面積とはいえ、やはり大型犬複数頭がいる事業として借り受けられる物件は限られており、5階建てにも関わらず、支えるべき肢体不自由者にとって必須であるエレベーターなし。急遽設置した2階までスロープと自腹で設置した障害者用トイレでもってどうにか、一般の方向けの見学会開催を迎えることができた。

<八王子市内の賃貸ビルの頃の見学会の様子>

 与えられた環境で着実に介助犬育成の実績を積み、「良質な介助犬は良質なトレーナーから」の理念のもと、2006年より研修生制度を開始し、人材養成も開始した。介助犬育成普及活動の財源はほぼ全額が個人・団体・企業からのご寄付で成り立っている。つまり非常に不安定な事業である。しかし介助犬育成は不安定な運営では成り立たない、責任ある事業であることは言うまでもない。

障害者に「いつでも遊びに来てください」「介助犬について知って、体験してみてほしい」と言えない環境では普及などあり得ない…。そう考えて、社会福祉法人設立から3年の2007年、当時事務局長を務めていた私、高柳友子を中心に、介助犬訓練センター建設のための準備を始めた。

肢体不自由者が利用するために必須である最低限の面積とエレベーターやスロープ等。それらを限られた予算の中で実現しなければならない。候補地に悩み、四方八方にご相談した末、遂に、愛知県長久手市に候補地を探すことが出来た。そして、大変光栄なことに、愛知県だけでなく、名古屋市、岐阜県、三重県、静岡県からも「東海地方に全国で唯一の介助犬訓練施設が出来ることは歓迎したい」と、応援のための補助を頂くことが出来た。これまで盲導犬しか指定の実績がなかった公益財団法人JKA(当時日本自転車振興会)からも重点補助事業指定を頂き、建設費用を補助して頂いた。当時「介助犬?なにそれ?」「犬の訓練所?!犬がうるさいし危険だからいらんぞ!」などと、理解を得られない言動や、費用が集まらない時に心折れそうになったが、「全国初の施設が、我が長久手に出来ることは大歓迎」と温かく応援して下さった当時の故加藤梅雄長久手町長や、町役場の皆様、ご支援をくださったJA共済連さんや地域の理解者皆様の応援があったことが心の支えとなった。

 介助犬法制化の足がかりをつくってくれた介助犬シンシアから名前を取り、愛称は公募の末「シンシアの丘」に決定した。そして2009年5月27日、介助犬総合訓練センター~シンシアの丘~は開所式を開催した。

<シンシアの丘開所式の様子> 


10周年を迎えて 新たな領域への挑戦へ

 25頭分の犬室を備えた犬舎、犬舎を見渡せるガラス張りの事務室、電動リフトを設置した居室もある計5部屋のユニバーサルルーム、見学会やセミナーなどで100名が入れるホール、ボランティアルーム、研修生が寝泊まりできる部屋を設置した介助犬総合訓練センター~シンシアの丘~ではこれまで35組の合同訓練を実施し、日本介助犬協会としては設立以来57組の介助犬ペアを送り出してきた。10年間で延べ47,000名以上の来訪者(見学会や介助犬希望者向け体験会等への参加)を受け入れて来た。




















<居室の様子>


2019年には開所10周年を迎えたシンシアの丘。地元長久手市と共催で記念式典を開催し、日頃から活動の大きな支えとなってくださっているボランティアさんに感謝の想いを伝えるとともに、今後の活動への決意を新たにする場となった。2020年春以降コロナ禍で来場型の啓発イベント開催は思うように実施できておらず、オンラインでの情報発信に力を入れている。

<開所10周年記念式典>

 <オンラインでのボランティア向け講習会>


手足に障害を持つと、自宅から外に出て宿泊することは不可能と思い込んでいる方が多い中、「シンシアの丘に宿泊することができた」という経験が、ホテルでも準備をすれば泊まれる、旅行や出張が出来るという自信につながる。介助犬は生活の課題を解決するきっかけでしかないが、私たち職員が犬と人を繋ぎ、元気にするプロフェッショナルとして、介助犬で解決すること、介助犬以外で解決することを整理し、ご家族・職場・地域を巻き込んで、介助犬を中心に新しいコミュニティを作り上げ、介助犬との生活で、楽しく課題を解決していくお手伝いをする。これこそが正に「リハビリテーション」なのだと思う。

 犬が素晴らしいのは、パートナーを「障害者だ」と判断せず、楽しいことだけを求めて「ご飯!散歩!」と誘い出してくれること。それこそが、心のバリアフリーである。


 犬の素晴らしさを求める社会のニーズは拡がりつつある。


 聖マリアンナ医科大学病院(神奈川県)には、提携をしているスウェーデンの団体Kyno-Logischから来たスタンダードプードルのモリスを勤務犬(Facility Dog)として貸与している。動物介在療法は小児科、小児外科、ターミナルケア、リハビリテーション、産婦人科等々 多くの医療現場で活用され、患者さんの笑顔や苦痛の緩和、治療への大きなモティベーションとなっている。

<聖マリアンナ医科大学病院にて手術室に同行する初代勤務犬ミカ>


 障害児がいるご家族、発達障害・高次脳機能障害がある方のご家族から、「日本介助犬協会なら、障害のことを理解して犬をマッチングし、フォローもして頂けると期待して」とご相談を頂いたことを契機に、犬への社会的なニーズが高いことがわかった。それぞれの障害とご家族のご要望に合わせて、介助犬には向かない面があるものの、家庭ではとても飼いやすい子を、それぞれのご家庭のニーズに合うようマッチングして譲渡する「With You プロジェクト」はこれまでに21家族に実施している。

医療に近いところにいる私たちだが、小児精神科のドクターから「虐待や性被害を受けた児童に対する支援」として、面接や証言をする時の支えとなる「付添犬(つきそいけん)」への協力要請を頂き、ひたすら撫でられることが大好きで、新しい環境に行っても落ち着いて子供さんとまったり出来る犬とスタッフをハンドラーとして派遣する事業を始めた。残念ながらコロナ禍で、ニーズは益々高くなりそうだ。


 1990年代、木村佳友さんと介助犬シンシアの存在に魅せられて介助犬育成の世界に飛び込んだ水上言は現在シンシアの丘センター長兼訓練部長として協会を率いている。シンシアの丘設立と同時に愛知に異動してきた当時第3期研修生は現在中堅職員として協会の根幹を担っており、研修生制度は15年目を数える。

犬たちを育てるまでに、多くのボランティアさんの愛情がリレーを繋ぐ。だからこそ犬たちは人を信頼し切っている。そんな犬が、誰かの笑顔を引き出し、心の壁を取り去り、やる気を起こし、生きがいになり、辛いことを楽しいことに変えられるように、日本介助犬協会はこれからも一人でも多くの人と犬を繋ぐよう力を尽くし、そんな力を尽くせる人財を育てていきたい。



社会福祉法人日本介助犬協会 専務理事 高柳友子(医学博士)




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