【特別対談】自律と循環。互助と共助。電力プラットフォームが描く、ポスト資本主義の地域活性とは。
地域で使われている電気料金は、その地域で生み出されるお金の約5%から10%(※)にのぼり、しかもすべてが地域の外へ流出しています。コロナ禍により都市一極集中から地方分散への意識が向けられるなか、地域のお金を地域の中で循環し、使われる仕組みの整備は地域の自律を支える上で必要不可欠と言っても過言ではありません。
※参照:環境省『地域経済循環分析データベース2013年(2018年改定)版』
この課題に対するひとつの解答が『SOCIAL ENERGY』。株式会社イーネットワークシステムズと株式会社Next Commons Labがタッグを組んで生まれた、地域にも環境にも財布にも優しい電気を販売できるプラットフォームサービスです。
今回はプロジェクトの仕掛人として事業を推進するキーパーソンのお二人、大澤哲也氏と武井浩三氏に『SOCIAL ENERGY』のこれまで、そしてこれからについてお伺いしました。
サービスとビジョンのベストマッチ
−まずはそれぞれの事業の立ち位置などをお聞かせ願えますか?
大澤:イーネットワークシステムズ(以下ENS)は家庭用のエネルギー供給で創業80年の歴史を持つ三ッ輪ホールディングスのグループ企業です。祖業はLPガスや石油販売なのですが、新たな価値の創造をコンセプトにさまざまな事業を展開しています。
武井:ENSはその中でも電力を扱っているんですよね。
大澤:そうですね。ただし一般のお客様に自社のブランドで電力を販売するのではなく、電力販売の裏方、プラットフォーマーとして販売の支援をするという点が特徴です。つまり提携事業者にあったスキームを構築できると。
武井:自社で売らないからこそ、カニバることもない。
大澤:電源は国内外に多くの実績がある丸紅新電力からの調達となります。これまでの提携事業者としては地方自治体や、面白いところだと小田急電鉄さんですかね。『小田急でんき』ではポイント事業との連結のほか、データ分析まで踏み込むことで沿線価値向上の取り組みをご一緒させて頂いております。エネルギー事業者ですが、実際にはかなりテック寄りの企業といえますね。
武井:一方で私の所属するNext Commons Lab(以下NCL)は社会実験を行なう社団法人NCLと、その成果を浸透させるための社会実装を手掛ける株式会社NCLというふたつの法人があります。今回、ENSさんとのコラボレーションを果たしたのは実装のほう。つまり株式会社NCLです。
なにを目指している団体なのかひと言で表現すると、ポスト資本主義社会の具現化です。20世紀の資本主義はあちこちで制度疲労を起こして、限界を迎えつつあります。これからはサービスの提供者と受益者、生産者と消費者といった二項対立の構造を乗り越えなければならない。それぞれの立場が混じり合うことで互助と共助の経済を生む場を作る必要があるんです。
大澤:助け合いの経済圏みたいなことですね。
武井:ところが今の社会ってそういったコミュニティが作られるきっかけが少ないんですよ。なぜならすべてのサービスが商品化されお金でやりとりされるから。たとえばお醤油が切れたら昔なら隣に借りに行ったりしていました。それがいまはコンビニで買えてしまう。
大澤:便利は便利なんですけどね。
武井:ただ、関係性を育むという点で資本主義は問題だらけです。いまの世の中の社会課題はお金の不足ではなくて関係性の不足に起因するものがほとんど。そこに私たちが入り込んで地域の社会関係資本や自然資本など、いままで活用されていなかった資本を新たに掘り起こして活性化させていくというのがビジョンなんです。
−そこで今回、ENSとの提携となったわけですね
武井:ENSの電力プラットフォームサービスはポスト資本主義のコンセプトにベストマッチだといえますね。実にNCLらしいというか、これ以上ない建付けだと思っています。社団法人NCLに寄せられる地方からの相談のほとんどが、人口も税収も減って行政のサービス提供が難しいからダウンサイジングしたい、というものなんですね。それには地域の中で民間同士が助け合って、行政の手が届かないサービス領域をまかなう仕組みが必要だと。
大澤:さきほどおっしゃっていた互助と共助ですね。
武井:そうです。で、そもそも株式会社NCLは組合型株式会社という、日本でも珍しい法人株のファイナンススキームを取り入れていまして。
これは資本主義の課題でもある、資本家や地主がひたすら不労所得で肥えていく仕組みを解消するものです。そして電力や水道のような社会に広く提供するサービスを扱う会社にこそ導入すべきスキームでもあるんです。
社会関係資本のマネタイズを実現
武井:電力とか水道のような公共性の高いインフラは、それを使う地域の人たちが所有者であり株主になるのが最もユーザーメリットがある。完全に利害一致するんですよね。ドイツのシュタットベルケがいい例だと思うんですが。でも日本では株主の利益の最大化に走りすぎている。そこに危機感を抱いていたんです。
大澤:だから株式会社NCLではポスト資本主義を体現する存在でありたいんですよね。そのためにはENSの電力プラットフォームサービスはまさにうってつけですよね。
武井:おっしゃる通りです。ENSとNCLが組めば、公共性の高いインフラを資本分散した組織で提供することができる。さらに地域のプレイヤーが簡単に電力サービスをはじめることができるわけで、そこが本当に素晴らしいなと。いくら電力自由化といっても素人が電力会社を立ち上げるのはやはり難易度高いですよね。でもENSが汎用的なプラットフォームを作ってくれたおかげで参入障壁が低くなりました。
大澤:一方でNCLは全国の地域プレイヤーに対してネットワークを持っていますよね。この2つが組み合わさることで地域の社会関係資本を持っている人がマネタイズできればいいということですね。
武井:これまで人間関係はあってもお金を稼ぐことができない、という地域創生の課題がありました。『SOCIAL ENERGY』のソリューションは地域に住む人、事業者、自治体や行政など、みんながハッピーになれる素晴らしい座組みだと思います。
−もともと最初に声をかけたのはどちらだったんですか?
大澤:私からです。NCLにアプローチをかけて、代表の林さんからポスト資本主義の話を聞くうちに「これは面白いな、ウチのプラットフォームに合うな」と思うようになりまして。それは林さんも同じ感触だったようです。
サービス第一号は『フィッシャーマン電力』
−『SOCIAL ENERGY』で解決できる社会課題は他にもありますか?
大澤:再生可能エネルギーとかCo2フリーというのはもうすでに当たり前のレベル。ですから『SOCIAL ENERGY』を扱うプレイヤーが持つ個別の課題解決に寄与することになりますね。
武井:サービス第一号となる一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンはもともと水産業の活性化を目指しているプレイヤーで雇用を増やしたり、海の環境保全などに取り組んでいます。彼らの活動を『フィッシャーマン電力』を通じてサポートできるということです。
大澤:ここが他の会社やサービスと全く違うところです。こういったケースがプレイヤーごとに増えていくことが結果として、さまざまな社会課題の解決につながるんじゃないかと考えています。
武井:最近は社会課題解決型の電力業者もありますが、僕らは資本を分散しているところがまず大きく異なるのと、地域の課題を解決するための活動原資となる収益源が確保できる点が特徴的です。おそらく日本初の取り組みといえるでしょう。
−フィッシャーマン・ジャパンが第一号になった経緯は?
武井:もともと彼らは株式会社NCLの株主法人でした。NCLにはいま法人個人あわせて44組の株主がいますが、その中で『SOCIAL ENERGY』をファーストケースとしてコミットできる事業者さんいますか?と声を掛けたら手をあげてくれたんです。
大澤:水産業の担い手を増やして育てたり、若者と水産業との接点を増やしたり、といった日常の活動を通して取り組みを応援してくれる関係性が構築できていた。漁師さんや水産加工業者さんとの間にですね。そこに『SOCIAL ENERGY』が上手くハマったわけです。
武井:こういうケースは今後も増えていきそうですよね。
−事業者を増やすためのマーケティング戦略などは?
武井:従来のマーケティングってものすごく資本主義的な企業活動で。顔の見えない相手からどれだけたくさん奪い取るか、というアプローチなんですね。そして、その正反対に位置するのがコミュニティです。顔と名前が一致している関係性の総和である地域コミュニティを増やしたいし、そういった活動をしている人を応援したい。
いま世の中の電力会社っていかにお得ですよ、安いですよ、という価格競争ばかりやってますよね。そういう戦い方は私たちはしませんし、そもそも戦う気がない(笑)。たとえばですが、自分が応援している方にお金が回るなら他より一割ぐらい高くてもいいよ、という人もいるでしょうし。そういう選ばれ方をするサービスになるといいなと思っています。
新しい時代の潮流として
大澤:NCLに集まってくる人たちが本当に面白くて、今後の展開に期待しています。教育関係の事業を手がけている人やローカルファンドの事業主さんなど、多岐に渡るプレイヤーが揃っているんですよね。そういう方々が自分たちの色を『SOCIAL ENERGY』にそのまま乗っけてもらえると、面白いサービスが生まれると思いますよ。
武井:年内で10組ぐらいリリースできるといいですね。たぶんいけるんじゃないでしょうか。ただ実例が出てこないとイメージが湧きにくいというのも確かですよね。
大澤:そのためにも今回の『フィッシャーマン電力』には大きな期待を寄せています。彼らの日々の活動そのものがファンを増やしてくれるんだと。
武井:すごいサスティナブルですよね。日々の活動で広がっていくだなんて。でもフィッシャーマンのメンバーもすごくやる気でしたよ。
−長期的なビジョンとしてはどんなものを描いていますか?
武井:『SOCIAL ENERGY 』をきっかけにして地域の社会関係資本が新たに生まれ、育まれていくことですね。そこにつながっていけば、単なる電気のサービスではなく、より面白いものになっていくと思います。
大澤:関わった人がアイデアを出すとか、事業を立ち上げるとかですね。
武井:株式会社NCLとしても今回のようなアイデアがカタチになるようなケースをたくさん作っていきたくて。ポスト資本主義的なサービスを地域プレイヤーとか資本のある企業と一緒に開発して広めていくことができるといいなと。
大澤:提携実績でもある『アントラーズホームタウンDMOでんき』がいい例でしょう。アントラーズのような色の濃いプレイヤーと組むと、電気やプラットフォームという無色のサービスに付加価値がつきますからね。あと、個人的にはローカル社会の活性化を模索していきたいと思っています。
―アフターコロナの世界での新しいスタンダードになりそうですね。
武井:既存の仕組みがいきなりなくなることはありませんが、緩やかに変化していくと思います。マクロ経済でいうと誰かの黒字は誰かの赤字。これまでは利益率や売上が高い会社が良いという価値観でしたが、それを覆すパラダイムシフトは必ず起きる。そうしないと持続不可能ですから。そこに一石を投じたいという気持ちはありますね。
大澤:社会課題先進国である日本での最初の解決事例はローカルから、ということになるかも知れませんね。これまでは東京で新しいものが生まれて全国へと広がるのが普通でしたが、その流れが逆になる可能性もあります。
武井:実際、地域のほうが限られた資源で工夫しているんですよ。コミュニティスペースの活用などはローカルのほうが圧倒的に進んでいたりする。インターネットのおかげで情報格差がなくなっていますからね。
大澤:そういったムーブメントに『SOCIAL ENERGY 』が上手く乗っかってくれれば。
武井:いままでのビジネスはいかに効率的に儲けられるかが勝負でした。上手く行っているモデルを真似して大量に資本を投入するのが成功の定石。事業開発すら必要ないですからね。でも、そういうやり方に魅力を感じない人が増えているんじゃないか。それよりも地域で面白いことをやっているほうがカッコいい。その地域でしかできないことのほうが価値が高いですからね。そういう活動を『SOCIAL ENERGY 』で支援できるようにこれからも動いていきます。
−本日はありがとうございました!
【profile】
大澤哲也 株式会社イーネットワークシステムズ 取締役
欧州系経営コンサルティングファームでの勤務を経て、2015年に三ッ輪産業株式会社に入社。中期経営計画の策定に従事した後、経営戦略部の部長に就任し、経営改革を実行。電力事業を行うグループ会社のイーネットワークシステムズの事業立ち上げにも注力し、コインチェック社との提携により、日本初のビットコインによる公共料金支払いのシステム化を推進した。2019年11月に三ッ輪ホールディングスの取締役兼経営戦略本部本部長に就任。現在はイーネットワークシステムズの事業拡大に伴う業務整備と並行し、三ッ輪ホールディングスグループ全体のさらなる成長にむけた戦略立案に取り組んでいる。
武井浩三 株式会社Next Commons Lab 監査役/顧問 社会システムデザイナー
高校卒業後ミュージシャンを志し渡米、Citrus College芸術学部音楽学科を卒業。アメリカでの体験から起業するも、倒産・事業売却を経験。その後、経営の透明性をシステム化した会社を設立。2017年には「ホワイト企業大賞」を受賞。ティール組織・ホラクラシー経営等、自律分散型経営の日本における第一人者としてメディアへの寄稿・講演・組織支援などを行なっている。また持続可能な社会システムや貨幣経済以外の経済圏など、社会の新しい在り方を実現するための研究・活動も多数。現在は株式会社eumoのボードメンバーとして新しい金融に関わりながら、SDGs、組織開発、フェアトレード、地方創生等、多数の営利非営利企業にてボードメンバーを務める。
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三ッ輪ホールディングスグループ 広報(担当:加藤)
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