<パラ馬術>障害をもつ選手と馬との多様なコミュニケーション方法とは
馬と選手の間の絆とコミュニケーションは、馬術競技における重要な要素です。パラ馬術選手は、どのように馬とコミュニケーションをとっているのでしょうか。
健常者の馬術選手は、手や足、体重などの合図を組み合わせて馬とコミュニケーションをとりますが、パラ馬術選手の中には、障害による身体的・感覚的な制限を補うために、補助器具を使用する選手もいます。
ナターシャ・ベーカー選手(イギリス)の場合
パラリンピックで5度の金メダルを獲得したナターシャ・ベーカー選手(イギリス)は、次のようにコメントしています。
「私はお尻から下の感覚がほとんどないので、馬に乗っているときは足がぶら下がっている状態で、自然と馬の動きに合わせて動くんです。私の足が動いているように見えたとしても、それは私の意思ではなく、完全に無意識に動いています。
そのため、合図は私の声が頼りになります。私は馬を小さな音や言葉で訓練し、私が何を求めているのかを正確に理解させるようにしています。単純な音であれば、私がもっと前に進みたいということが伝わりますし、声で『トロット(駆け足)』などと命令すれば、私が何を言っているのかを正確に理解してくれます。」
ラウレンティア・タン選手(シンガポール)の場合
健常者の馬術選手には標準的な幅広い動きがありますが、パラ馬術選手は自分の障害を補うために、馬と独自のコミュニケーションスタイルを見つけ、発展させていかなければなりません。
必要に応じて、選手は様々な補助具を使用することが認められています。その中には、選手のバランスをサポートするための、特別なデザインのサドルも含まれています。また、鐙(あぶみ)に足を乗せるためのゴムバンドや、両手に持つ鞭、適合する手綱などの使用も認められています。
シンガポール出身のラウレンティア・タン選手には、生まれつきの脳性麻痺と重度の難聴があります。音楽の開始と終了を人に教えてもらい、馬とのコミュニケーションは感覚に頼っています。
ラウレンティア・タン選手は、馬とのコミュニケーションについて、次のようにコメントしています。
「私はいろいろな馬に乗ることができますが、自分専用のループ状の手綱が必要です。
私の手と馬の口をつなぐ手綱は、電話線のようなもので、私と馬との会話を柔らかく、安定させ、思い通りに動かしやすくしてくれます。 このような馬との接し方は、乗る馬によって異なりますが、馬の最高のパフォーマンスを引き出すためには絶対に必要なものです。」
馬を補助具に適応させるトレーニング
多くの馬術選手が証言するように、馬のボディランゲージを解釈することは、成功させるための鍵の一つです。しかし、馬を補助具に適応するように訓練し、うまく合図に反応できるようにすることも、馬とアスリートの関係を発展させる上で重要な役割を果たします。
アメリカチームのパラ馬術コーチ開発・ハイパフォーマンス部門責任者のミシェル・アスーライン氏は、馬を補助具に適応させるトレーニングについて、次のように説明しています。
「パラアスリートが馬に乗る前には、まず健常者が古典的なトレーニング方法で馬を訓練し、その後、アスリートの障害に合わせて再訓練します。
馬はその選手の障害に合わせて訓練されます。例えば、脚を完全に使えない選手の場合、馬は脚の代わりとなる補助器具を使って、手のタップで合図や信号を受け取るように訓練されます。また、声を使って馬とコミュニケーションをとることもできます。
脚が使えない選手にとって、タップは指揮者のタクトのようなもので、馬に動くべきタイミングを知らせることができます。
健常者のトレーナーが、脚を使わずにタップで馬を訓練していき、トレーナーから引き継ぐ頃には、馬はすでにこれらの合図が何を表しているのかを認識しています。馬が本当に自信を持って、合図を信頼できるようになるには、平均して半年から1年ほどかかります。」
パラ馬術の継続的な発展に向けた取り組み
FEIパラ馬術委員会は2006年4月に設立され、パラ馬術競技者のニーズや要求が十分に反映されるようにサポートしています。
FEIパラ馬術委員会のアマンダ・ボンド委員長は、パラ馬術の発展における補助器具の重要性について、次のようにコメントしています。
「馬は自分の考えや感情を持った生き物であり、言葉や言葉以外の合図にも敏感に反応します。馬には自然な適応能力があり、何を要求されているかを読み取る第六感を持っているように見えますが、パラ馬術選手が馬と効果的にコミュニケーションをとるためには、補助器具が不可欠です。
FEIパラ馬術競技規則は、競技者が公平で安全な環境で競技を行うために必要な用具を確保するために制定されています。パラ馬術の継続的な成長と発展のためには、これらの原則を守ることが重要なのです。」
(Photo credit: FEI/Liz Gregg)
大会での競技については、東京2020パラ馬術のページ(https://inside.fei.org/fei/games/paralympic/tokyo-2020)をご覧ください。
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